Iron Steam B

広い通路に導かれて体育館へ進むと、待っていたのは肉の塊であった。

SPの部下の一人が口を押えて嘔吐する。そのグロテスクな肉塊は精神的にダメージを与えているようだ。私は血の生臭い道を進む。近くで見たら、それはホルンのような化け物であった。どくどくと鼓動させている。まるで私の鼓動と合わせるかのように。いや、今回は楽しめそうだ。私は部下に生徒等の避難をさせるように言うと化け物を見た。うねうねと伸びる触腕と表面を裂き出てきた目。いかにもおぞましい怪物であるが、このへんでは人が怪物になるのが多いらしい。何個かこの規模ではないが担当したことがあった。原理と原因は知らないが。

 

私は深呼吸をしたあとロングコートの袖をまくった。眼を閉じ右手に意識を集中させる。

これが戦闘兵器の特徴である。個体にもよるが、それぞれの個性的な武器が存在する。眼を開き重い右手を正面に向ける。みるみると腕が黒化していき鉄のような物質の大型の銃が体に同化した。

原理はわからないが、精神を利用して弾丸を生成する。そんな命綱を体に抱えた。どんな構造なのかは誰もわからない。だが、弾だけは意識と同じになる。ホルンの中央に向けた。もう一度深呼吸をし、意識を集中させる。すべての眼がこちらを見ている。そして触腕が上に上がった時、化け物に向けて放った。ついさっきまで生徒だったんだろうにな。楽器ということは音楽関係だったのだろう。

 

’’’バン’’’

 

手の先から暖色の火花が散る。そして空気と同化する。凄い反動と共に発射された金属質の物質は、ホルンめがけて、一呼吸もしないうちに大きな穴を開けた。音は壁に反響し本体に共鳴する。

ガチャンと腕が動きサイドの棒から蒸気が吹き出る。そしてオレンジ色に輝いている。穴が空いたホルンは、もう低い重低音ではなく、苦しみに溺れた人間の声へと変化している。

崩れ落ちるホルンにもう一発の弾丸を撃ち込む。右手は高温になり蒸気が吹き出した。

 

壁には血と体液が飛び散り、肉片は着弾と同時に引き裂かれ、ひき肉よりもひどい状態になっていた。剣を取り出して突き刺し、動かないのを確認した。処理は終わり精神的な疲れが生じる。

連続して撃ったせいで右手は少し赤くなっていた。袖を元に戻すとドタバタと警察やらSPやらが来る。

私は横のドアから抜け軽く血を落とした後、引き続き警備を続けた。

その後には何もなく文化祭は終了を迎え、報酬をもらったあとすぐに帰えることにした。

警察や掃除屋達が作業をしている。それを横目に見ながら門を出た。顔は引きつった笑顔である。久々に戦ったものだから楽しかった。あいつにはいっぱい奢らないとな。

 

私は酒を店で買ったあと、事務所に戻った。

しかし、問題は起こるものだった。事務所の階段に、誰か座っている。

パーカーを着た少年だった。私から見たら小さい。少年はこちらを認識すると、立ち上がる。

大きな荷物を抱えている。おいおい冗談だろ。

 

「あの、あなたがレイ=コアさんですか?僕ラウンジといいます。ハル=ラウンジ。」

 

あぁ最悪だ。まさかとは思ったが……私は彼を無視して階段に向かう。

しかし彼はずっとついていくばかりだった。もうイライラしてくる。少し試してみるか。

 

「おい、お前人殺したことあるか?」

 

この世界では当たり前である。子供でも十分に殺せる。だが、まだ勇気がないだけだ。

 

「いえ、僕は訓練でしかやっていません。それがなにか…」

 

「お前もう一回言ってみろ。」

 

こいつ訓練とでも言ったか?相当嫌な予感がしてきた。

 

「え、あ。まだ殺していませんけど…」

 

隠した。やはりか。もうしょうがないな。

 

「入れ。そこで話す。」

 

万が一聞かれたら私の身も危ない。私はなんとか隠しているが、この未熟なガキにはまだわかっていないはずだ。部屋に入りドアに鍵をつけ、防音システムを作動させた。漏れるのはまずいことだから。

ソファに座らせ、私はコーヒーを淹れ席にすわる。向こうは何やら不安そうだ。

 

「お前、スカーだろ。」

 

私の一言に、彼は過剰に反応した。やはりか。スカーとは我々戦闘兵器を指す。

彼はうなずく。

 

「私がスカーということも把握してたか?」

 

これは違うようだ。万が一ばれていたとするなら、ほかの場所に身を移さなくちゃいけなくなる。

 

「僕は逃げ出しました。あの殺人工場の施設から。僕は自由にいきたいんです!」

 

そんなん言われなくてもわかっている。だいたい脱走するやつはこういった気持ちを持つものが多いから。

だが、バレてしまっては奴ら、看守と呼ばれる監視人におそらく殺されるだろう。そしてその可能性は今上がっているわけだ。それも現実となっている。こいつの脱走がバレたらしい。外には奴らが歩いていた。顔は誰も知らないだろうが、左肩にあるコードを読み取られたらまずい。スカーには固有のIDとそのチップが埋め込まれている。私は抜き取ったが、少年はまだ未摘出な故、隠さなくては。

 

「お前はしばらくここからでるな。私の身が危うくなる。左肩のやつを消すのに3日の時間がかかるな。そこまでここいいろ。」

 

明日に左肩の手術をする。そしてその治癒に2日だ。単純な説明をした。

 

「レイさんは大丈夫なんですか?」

 

「すぐに切り取った。」

 

脱走したあとバレないように左肩を手術した。あのときの痛みは気が狂いそうだったのを覚えている。

だが、こんな少年には耐え難いはずだ。麻酔か何かを買ってこよう。

いや、そいつの処遇はあとに回したほうがいいな。階段から足音が聞こえる。奴らが来たらしい。

本棚にある隠しスペースに彼をいれ、出迎えた。

 

 

embii