Iron Steam End
その広がった静けさが増し、不意に血痰を吐いた。
相当な疲労と敵の精神攻撃、横腹の傷が少しずつ体を蝕んでいた。もう持たない。そんなことが分かる。
こいつだけでも...生きさせよう。そう思い、そして決意した。私はラウンジに近づきポケットから紙をだす。
本当は渡したくなかった物は事前に用意し、自分の覚悟を試すものであった。
「これを持ってこの先の工場地帯に行け。そうしたら中にある紙のとおりに行動すればいい。」
私は笑って言った。心配させないように。ラウンジは眼を見開き、困惑している。
「でも、僕はコアさんと戦います。どれだけ相手がエリートでも...最後まで戦います!」
お互い拳に力が入る。二人が固めた決意がぶつかった瞬間だった。
「だめだ。お前が生きなくちゃどうする?こんなところで死んでほしくないんだ。お前には。」
「いやです。僕だってっ」
「いいから逃げろ!、お前だけはっ...」
言葉が詰まった。心がねじれるくらい痛い。私の役目を全うするためにはやらなくてはならない。
ラウンジは涙目だ。私まで泣きそうだな。
私はラウンジの背中を押した。服越しからでも震えているのが分かった。
「工場地帯は3キロもない。今なら間に合う。それがお前の役目だ。私はパークが受けた仕事を引き継がなくちゃいけないからな。」
うつむくラウンジが顔を上げた。
「死なないでください。」
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コアさんは「わかってる。」と言ってくれてた。
そして、僕は言われた方向に向って走った。多くの死体の中には、軍やスカーの部隊の死体が転がっている。
僕は死んだ人の命の上で生きている。そんな気持ちを噛み締め、工場地帯の一角に走って行った。
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「行ったな。良かったよ…。」
「いつまで寝てるんだパーク。仕事だぞ。」
片腕が千切れたパークは、もう目が笑うことすらできない。かろうじて立ち上がり言った。
「特にお別れは..いいのか。俺はやれて10人ぐらいだな。軍の主力大隊が、3つだと...6000人はいるな。」
「笑えるなそれは。でも目的は果たした。気のすむまで戦って、悪魔と言われるまで生きようか。」
爆発音とともに青い閃光が向かってきた。スカー及び国軍リバイアサン級主力大隊の連合軍。
その数と武装は私たちという存在を消すかの如く迫ってきていた。
パークは私が剣を握る間もないうちに敵に突っ込んでいった。私も...
「最後くらい、煙のように消えるのではなく、華のように散っていこうか!」
ギィィン
金属の音が煙のように、優しくそして汚く包んだ。
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「はぁ…はぁ…」
目的地は廃工場の一つ。コアさんが昔潜んでいた所らしい。地図のとおりに向かうと、石で隠された穴の中に生活できるスペースがあった。僕は地面に座り込みバッグを置いた。
そして、さっき渡された袋を取る。中にはここ周辺のもっと詳細な地図と…写真が付いていた。
それは、コアさんと誰かが肩組みをして周りに笑顔の人たちが囲んでいる写真。
まだ左肩にIDがあった。そして肩を組んでいる少年のIDをみた。背筋が凍る。そして信じられない速さで心臓が鼓動する。
UIー6846。僕のID。
そして小さく書かれた認識コードの後ろには¤というマークがある。それは、同じ場所で作られた個体であることを差し、人間でいう家族の証であった。口からこんな言葉があふれてくる。
「お…お姉ちゃ..ん?」
その瞬間、ビルが崩れたのが見え、そして赤色に輝く信号弾があがった。軍の勝利宣言。僕はなんとかその場で立っていた。
そしてまたあの場所に戻っていった。
お姉ちゃんのところへ。
あっという間のさっきの時間が100倍遅く流れる。
必死に走る僕はもう、獣のように転んでは立ち上がりを繰り返して、荒廃した地から中心部へ向かった。
4ブロックには避難指示が出され、人が誰一人としていない中を僕は走っていった。
ビルが崩れた跡があり、さっきまでなかった腕や足が散乱していた。
ビルの残骸を登り中心地をみた。
そこには1つの塔があるだけだった。
そびえ立つ塔は、僕に絶望を与えた。
それは、多くの槍で串刺しにされたコアさん。
そして、下には四肢が切断され頭部が砕かれたパークさんらしき人が倒れていた。
足音を立てないように近づいた。僕は塔のすぐ横でずっと見上げた。絶望が与える感情の波にのまれながら。
目の前が滲んでいく。そして涙が溢れて流れた。その垣根から僕はあることに気づいた。
コアさんの手にはレコーダーがあった。最後に強く握った跡がある。僕はそっとそのレコーダーを取り再生した。
かすれた声で、なんとか喋っているようだった。
『ラウ…ンジ。お前が来たとき、少し疑ったんだ。生き別れの弟と出会うなんてことがあるのか…と。
最初は違うと思っていたんだ。でもチップと肌の模様で確信が、ついた。』
血を吐きながら録音されたメッセージを僕はただ聞いていた。
『ハル…まさか生きているとは思ってもなかったんだ。そして私の役目は、いや姉として、の役目は弟を守ることだからっ。お前だけは生きて欲..しい。』
『ハル、お前は優秀だし生きていける力もある。お前だけは生きてほしいんだ。』
しばらく合間が空き、照れくさそうな口調で言った。
『一つだけ….わがままを言わせてくれ。もし死体が残っていたらっ…この国が一望できるところに墓を立ててほしいな。パークも一緒に入れ‥てやってくれ。それぇっと、ポーチの中にあるパークの小物入れに12ブロックの永久移住券の引き換えがある。それでゆっくり過ごしてくれ。』
少しあいて最後のテープが回る。
『約束を守れない姉でごめんね。また過ごせて良かったよ。ありがとう。』
喋るような力もなくなっていた。だが、僕は無意識にそのテープを抱きしめていた。
上を見上げ、息を吸った。これだけは伝えたい。
「うん…ありがとう。わがまま叶えるよお姉ちゃん。」
僕は立ち上がり一つ一つ槍を抜いていく。血はもう出ない。青ざめた肌が見え、顔にひたたる涙が光って映った。
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30年ぶりに晴れたらしい。僕は家を出て陽気に歩く。年に一週間しか訪れない春は温かい風を供給した。
「こんにちは、カイドおばさん。今日は温かいですね。」
おばあさんはニコッとして通り過ぎた。
ガレージから愛用のバイクを出しエンジンをかける。相棒に乗り東の丘に向かった。
春は本当に暖かく、あの時の寒さとは違かった。
鉄の冷たさではなく陽の光と風の暖かさだった。
バイクの音は前よりも呼吸をしている。
そんなことを考えながら丘に行った。
桜が咲き、草木がなびかれている。そんなところに僕は来た。
桜の樹の下には2つの墓。
一つは、わかる限りの昔の仲間。
そしてもう一つは....。
「姉さん、パークさん。今日は30年ぶりに晴れたよ。それに気持ちがいいね。」
墓にはレイコアとサイトパークの文字が書かれている。そして二人の武器が並べられていた。
僕は枯れた花を入れ替え、目を閉じて手を合わせた。
「今年で僕21歳だよ。あれからもう5年経ってるんだね。姉さんとパークさんたちのおかげで普通に暮らしてるよ。今日は言いたいことが山ほどあるんだ。」
少し間を開けて、瞑った眼を開いて言った。
「今度、僕結婚するんだ。仕事の人とね。また挨拶に来るよ、そのときにいっぱい話そう。きっとその日も晴れてると思うよ。いや晴れているよ。」
僕はたち上がり笑顔を見せた。この国で芽生えた。幸せとともに生きる意味を見つけたから。
「そういえば、こんなこともあったかな。」
僕は命の上で踊る人形だとしても、鉄のように強く生きてきた。だから
僕は煙のように儚く消えはしないよ。
この国で、きっと。