Iron Steam I
「なにかいるな。ビルの低層階だ。あと地下階段の入り口。」
パークは私たちの進行を止めた。
気づかなかったが、なにか機械が設置されている。これはもしかして。
「まずい。ワープ装置だ。しかもこれは…」
見たことがある。まさかあいつが来るとはな。
「すぐに物陰に隠れるぞ!」
私達は建物の後ろへ回りこむ。
「見覚えがあるみたいだな。なんなんだ。」
するとラウンジが口を開いた。
「あれは、5つ星のスカーです。遠距離を専門とした部隊で、装置を介して多方向から射撃します。それに、国軍との合同演習のデータでは、これを利用した揚陸作戦が実施されていました。」
「となると、移動する手間が省ける分、重装備にもなれば、多くの人員を配備できるわけか。それも間断なしに。」
そうですと、ラウンジが肯定した。
「スナイパーならレーザーサイトが見えるんじゃないのか?こっちから見えれば簡単だが。」
「彼らのレーザーサイトは彼らにしか見えないので、こちらから探すのは困難です。」
少し考える。こうしている間にもやつらは準備を始めているはずだ。もたもたはしてられない。
「なら、私が先に飛び出して他の遮蔽になるところに行くから、それで撃たれた方向で索敵しよう。」
「ですが、リスクが高すぎます。」
「今は時間がない。奴らに万全の準備をさせたら負ける。早めに行動しないと。」
「まぁ行動するのはいいことだが、お前の強さでもほぼ満身創痍の状態で飛び出しても蜂の巣にされるだけだ。俺が突っ込むからお前の銃で撃ち抜いてくれ。」
「っ…わかった。」
あの頃の記憶が頭をよぎる。後方援護か…
パークの合図で前方へ銃身を向けた。パークは一直線に次の遮蔽物へ向かていく。
案の定撃たれるが、それを見事にかわし到着する。
「どうだ。見えるか?」
パークからの通信では、結構体力を使っているように聞こえた。
「2人。正面の3階とその隣。」
撃てるなら撃て。っと通信が入る。私は心のなかで3つ数えた。
3...2...1...ガンッ”!!!
轟音と高熱が発せられ私の腕にある銃身から銃弾が打ち出される。
一発の銃弾は一人の頭を撃ち抜いた。
そして続けてもう一発放つ。
標的は狙われていることに気づき、すぐに消えた。
「くそ。パーク。一人逃した。」
「了解だ。お前も場所を移せ。銃声がでかすぎるせいでバレバレだぞ。」
後ろを警戒していたラウンジとビル伝いに別のところへ向かう。
「次いいぞ。」
私がパークに通信を送ったとき、ラウンジに呼びかけられた。
「コアさん!後ろに。」
すぐに後ろを見ると、多くの人影に囲まれていた。国軍の歩兵部隊だ。まずいことになった。
「パーク!聞こえるか。軍に囲まれた。交戦する。そっちはどうなんだ。」
「こっちは交戦中だ。」
っと金属音とともにスピーカーから聞こえてくる。
「コアさん。どうしましょう」
ここじゃ性がわるい。
「こっちだ!」
私はさっきの大通りへ出た 。そこにはパークがいる。
「完全に囲まれたな。」
パークは私に背中越しに話した。
「もっと暴れてもいいんだぞ。いい的じゃないか。」
「こっちはとっさのことだったから左肩に一発入れられてんだ。すまねぇが期待すんなよ。」
青く鈍い光が周りを囲む
「合図で一箇所を突破しようか。レイ。背中を少し頼む。ラウンジは俺についてきながら前方を焼いてくれ。」
パークとラウンジとは背中合わせで構える。
私は周りの視線をこちらに向けるために、飛び出した。その1呼吸ほど後にパークたちは突破を試みた。
唸る銃身を腕の限界まで振り回し、敵を撃ち抜こうとした。
「っ、くそ。痛てぇじゃねぇか。耐えられるかこれ。」
さすがに数が多すぎる。できるだけ速く移動して撃っているが、敵の銃撃が行動を制限する。そのせいで近接戦闘となり、速度が落ちたところを銃撃してくる。
だが、後ろではパークが戦闘を続けていた。
まだだ、まだ耐えないと。
私はコートを脱ぎ捨てた。動きの邪魔になる。
右手が限界を迎えそうになる。私は祈りながら放ち続けた。
もう少し。もう少しだけ耐えれば...
その時だった。上から何かが来る。そして体の後ろへと落ちた。一瞬で振り向く。そこに落ちていたのは腕。手首には見覚えのある時計があった。
「う、嘘だろ。そんなはずは。」
パークが負傷した。そのことで数秒頭が一杯になる。くそ。
私は来る敵に対してすぐに反応し殺す。そして、
後ろで大きな閃光が街を照らした。その後、部隊が撤退した。ラウンジがやったのか。
すぐにラウンジのもとへ向かう。
「何があった!パークは。」
「おう。ラウンジがいい感じにやってくれたみたいで敵を一掃できたよ。」
「お前、嘘だろ。」
肩から左の腕がなくなったパーク。想像もしなかった。
「銃撃隊と重装兵がいて動揺したな。なんとか倒したがな。」
「それにお前さんも心配してらんないぞ。」
体中に弾丸のかすり傷や刃物の傷がある。
正直体力もきつい。
するとだんだんと煙が足元を埋め尽くしているのに気づく。そして正面は完全に霧で覆われていた。
見えるのは青い光の集団。姿が見えた。
顔に3つの光がついた4足歩行の大型獣。昔に部隊を壊滅させたビーストだった。
「厄介なのが来たな。倒さないといけないのか。」
「ラウンジ。今完全に戦えるのはお前ぐらいだ。私達はできるだけ前で戦うから。頼んだぞ。」
あいつも消耗している。全員満身創痍だが、やりきるしかない。獣は私達を確認すると、一気に突進してくる。
あの時と同じだった。
「ラウンジ、格好の的だからな。」
そう言って前に走り出した。やつに遠くからの弾丸は効かない。なら至近距離で打ち込むまで。
「避けろ!」
パークの声に反射的に反応する。
すると、後ろから閃光が通り抜け、目の前を焼いた。
しかし、突進は続いていた。炎の壁を突っ切って来る獣に、私は銃身を前にし、左手にハルバードを構えて衝突した。口のようなところに銃口を持っていく。だが、獣の体重が重すぎるせいで吹き飛ばされてしまった。すぐに立ち上がり姿勢を整える。もう一回だ。もう一度接近し、今度はハルバードで足を突き刺した。硬い装甲でもハルバードは突き刺した。そして口に撃ち込む。
同時に獣の爪が横腹に刺さった。獣は内部から砕け散ってなくなった。なんとか痛みをこらえつつ立ち上がった。パークは片手なのにも関わらず、優性に立ち回り戦っていた。
残りは2匹。同時に相手するのは不可能だった。でも限界だとしても戦いに行った。ハルバードなら確実に殺せる。あとは自分の武器次第だから。
一匹に向かいハルバードを向ける。獣は手でハルバードを弾いた。そのときに撃ち込んだ。そして後ろから来たもう一匹になんとか腕を持ってきて正面から串刺しにした 。突き刺したハルバードの柄は、獣の歯で折れていた。
二匹が死んでるのを確認し、パークの方を見た。
「おい、パーク。そっちはどうだ…ッ!」
私はその姿に絶句した。獣の爪と大剣が交差し、お互いを突き刺している。ラウンジがパークに近寄って声をかけている。私はそっとラウンジをどかし、ゆっくり爪を抜いた。
ラウンジは涙を流している。
誰も動いていない静寂が広がった。