Memory of Your Voice Rust

【声の記憶】
気がつくと、見覚えのある路地に立っていた。後ろを振り返ると、ただ壁が寂しくおいてある。冬の寒さが肌を刺激し、夕方の商店街の隅で少し立たずんだ。僕はそこから動き出し抜けだすと、そこは親子が行き交う商店街。安堵と寂しさが胸を埋め流れない。僕は、周りの景色を眺めていると走り出した。向かっているのは家。図書館で思い出した目的。母さんと父さんがいなくなった理由。

まるであの時の時間が遅く流れていたかのように此処の時間は早く過ぎるように感じられた。ごく一般的な住宅街にある僕の家に着き扉を開ける。目の前には誰もいない静かな空間が待っていた。階段を上がる。二階は閉ざされ使われなくなった部屋が一つ。正面を通さんとばかりに立っている。誰もいない部屋の一つに入る。たった一つ、ノートが開いて転がっている。そこにはいつ残して、いつ知ったのか。いなくなった両親のことが書いてあった。日付は12月25日。サンタからの最悪のクリスマスプレゼントだった。もう、やり残すことはなかった。知っていた結末なのに、胸を締め付け現れる。時刻は5時を過ぎようとしている。その時、誰かが家に帰ってきた。ノート達をまとめ玄関に向かうと、そこには久しぶりに見た茶良がいた。暗い顔をしている。僕は階段を降り茶良の正面に立つと、「話をしたいな。」とだけ言い、ダイニングに行った。

しばらくして茶良がジュースを入れて椅子に座った。
一瞬話そうかためらったが、母さんの言われたとおり、すべての出来事を何も隠さずに話した。いなくなった理由。僕が図書館で体験し、最後に母さんと父さんにあったこと。途中から茶良は、泣きすぎて目が充血している。そしてすべてが話し終わったとき、突然涙を拭った妹がこういった。

「うん…わかった。」
彼女は二階に上がると部屋から凄い物音がしたあとに、静かになった。涙をためた僕の目は、今にも溢れんばかりに漏れ出している。僕は夜ご飯の支度など、一連の動きをした後、この出来事を忘れないようにノートに走り書きを残したあとに寝ることにした。

あの日から、なにもかもが普通の生活に戻り、そしてあの場所の記憶はもう、モヤがかかって鮮明に思い出せない。いつ書いたのかわからない紙にあった断片的な言葉を頼りに、空き時間に図書館について調べていた。ネットで調べてはいるものの、そこでは関係のない物ばかりが転がっている。わかっていながらも、僕はあの日の光景を信じて調べていた。

戻ってきてから3週間たっただろうか。昼にパソコンを見ていると、一つメールに通知が入っていることに気づく。タイトルはなし。迷惑メールかなと思いつつ、とりあえず開いてみると、一つの音声メッセージが入っていた。僕はなんとなく再生してみる。

東京都渋谷区路地裏

ノイズのかかった短い音声。たったそれだけだった。他には何もない。本当にただの迷惑メールかと思いすぐに消そうとマウスを押したとき、ふと音声の最後に何かが聞こえた。もう一度再生する。一番最後にノイズに混じったもの。一瞬だったが鮮明に聞き取れた。

*EFU*

その言葉には見覚えがあった。そして僕はしばらく沈黙し、そしてにわか雨のように財布とかばんを持ち下に駆け降りる。

「お兄、どこいくの」

茶良がびっくりしたようにこちらを見た。

「ちょっと思い出の場所に行ってくるよ。」

僕は乱暴に靴を履き、扉を開けた。

そう遠くはない。この送り主は間違いなくエフさんだった。あの図書館の記憶、あの声が教えてくれた。

ちょうど来た電車にのった。休日の昼間の電車は親子連れや学生で少し混み合っている。ぼくは落ち着かない気持ちで外を眺めていた。すると後ろの若い人たちの会話が意識もしないうちに入ってきた。

「知ってるか?こんな都市伝説 …」
一人の男がこんなことをつぶやく。
「は?(笑)都市伝説なんて信じてんの?あるわけ無いじゃん」
もう一人の声がそれを反応する。
「いやそれがさ、実体験らしくて、ある路地裏のめっちゃ奥に行くと喫茶店があるらしいんだけど、その喫茶店。別の日に行くとなくなってるんだってさ。しかも跡形もなく店があった雰囲気すら無いんだってよ。」

やばそれ。っともう三人目がいうと
「っでさその喫茶店は蒼髪の長身の男と茶ぱつの女子と金髪でパーカーのJKが働いてるんだってよ笑」

笑いながら男はいっている。が、こちらは確信をついていた。

その後までは聴き取れなかったが、確実だった。彼らはこの世界にいる。

僕は駅につくと走ってその路地を探した。ありそうなところを虱潰し探した。ビルの間から、ちょっとした路地まで。だが、いくら探してもまず入り組んでいるところすら見つからない。都会の眩しさが余計に捜索を邪魔した。


僕は公園で途方に暮れていた。本当にただの都市伝説で、僕は嘘の幻夢を見ていただけなんじゃないか。と思い始めていたとき、携帯がなる。

「渋谷区……320

僕は諦めたくなかった。もういちど、感謝を言いたかった。だから探した。どこまでもそしていつまでも。


そして日が少し赤く染まり始めたとき、

「おい、てめぇ。なんでここいんの?」
気づくとそこは使われなくなったような建物の中だった。
そして目の前には数人の男と一人の女が立っていた。疲れていた僕は何も返せず、引き返そうとしたとき、何処なのか考えるまもなく棒で僕を殴った。

衝撃で倒れ込む。男たちは笑いながらその後も蹴られたり叩かれたりした。それは止むことなく、僕を痛みつけた。頭が真っ白になり、何も考えられない。

(もう、しぬのかな。エフさん達ごめんなさい。)


その時僕の中で何かが語りかけてきた。
それはあの世界で僕をさんざん苦しめて、そして戦い、最後に協力したきたあの声 。

鎌の主だった。

「みんな待ってるよ。ほらまた意識を奪って暴れちゃうけどいいの?あのときのお前は勇敢で強かったじゃんか。あのときの覚悟はどうしたんだ?」


その時急に口角が上がる。
そして心の小さな火種に油が注がれた。

「ふざけんなよ...これ以上待たせたくねぇな。」

血に濡れた口を手で拭うと、僕はその手で
鎌を持つ形にして想像する。
あのときの感覚で。決して揺るがない覚悟を背負って。

すると、手から大きな金属の鎌が現れる。

立ち上がった僕を見てゲラゲラ笑っていた男たちは、このことに驚き、笑いがなくなり一歩また一歩と後退りしていた。

僕は状態を前に向けると、身体は純白のローブに身を包む、あの頃の形になっていた。
あの場所で食事人と戦い、そして執行者を止めた。時の表情が戻った。

アイツらはまた襲ってきたが僕の中で遅く感じていた 。全てをかわしたあと、僕は鎌の柄で男の胸部を強打しなぎ倒す。それを見て一人の男がポケットから銃を取り出す。

「化け物が!こいつで死ね!!」

その瞬間全て発泡した。太陽で輝く鉛玉が向かってきた。が、僕は六発すべて弾き返し、主を同様に鎌の柄でなぎ倒した。

すると他の男と女は逃げ、僕は装備をしまった。

「まだ使えたんだね。これ。ありがとう。」

しばらく疲れで動けなかったが、何とか立っていた。口からは血が。もう、戦った感覚はなくなり、目からは涙と感情が流れていた。

「こうしちゃいられない。」
そしてあの座標まで走って向かった。何度も何度も転びそうになって。人にぶつかって。

でも僕は負けない。あの場所に行くのだから

 

どれぐらい走ってどれくらい時間が立っただろうか。もう体中の感覚がなくなっている。水分が尽き、息もほぼしていなかった。その時微かなコーヒーと紅茶を混ぜた匂いを感じた。そこは路地裏前だった。僕は止まった。

「見つけた...」
ここがメールの場所。そして異世界への廊下。
かすれた声だったが生気はあった。

一歩だけ踏み入れる。温かい空気が侵入した足を包み込む。思い切り中へ全身を浸すと力がこきあげてきた。
あの頃の手の感覚。そして鼻を香らせるコーヒーと心を温める紅茶の匂い。そして何より記憶が感じられる。

そしてしばらく道並みに進むと、太陽の光が入ってこない所に灯りがついていた。あの暖かさ。

僕は扉をあけた。僕のフィナーレの先。エンドロールあとの満たされた空間に入り込んだ。


「いらっしゃい。ファイルくん。よく来たね。」
「ファイルくん久しぶりだね。」
「ファイルじゃん、この場所わかったんだな。」
「ファイル!来てくれたのかよ!」
それら声の持ち主を見るまでもなく
僕はすべてを思い出し、そして涙で顔を満たしていた。

 

 

「これが、彼の夢のようなありえない話。本当にこんなことがあるんでしょうかね?ある路地の最奥に、一つの灯りが冷たい空気を温めているところは、本当にあるのでしょうか。」


「あ、申し遅れました。私…


ルドルフ・エフ、と申します。この図書館の館長しています。おや?そんなに驚いてどうしましたか?えぇ、そうですね。もしかしたら、
お客様もここには一度足を踏み入れているかもしれませよ。


では、この物語はおしまいでございます。
ご来館ありがとうございました。」

終わり。

 

あとがき

なんやかんやで終わらせましたこの物語。意外と時間がなくてカタカタできなかったせいで、すごい時間がたってしまいました。この物語は、初めて小説的なことをしようと思いましてやったことですので最初の方は非常に拙い構成でした(笑)。

ですが、いろんな本をいろんな機会で読んでいくうちにたぶんうまくいなったなと思う節もございます。

私自身物語というより、論説文ですとか、戦史の本ですとかそういうまったく違うジャンルを好んで読んでいましたので、難しかったです。

別に執筆で食べていこうとは思っていませんですし、本当にただの思い付きですので、

クオリティの面では非常に劣っていますけど、この物語を読んで私だったらここはこういう風に考えるなとか、ここの場面いいなとか想像力を掻き立ててもらえたらと思います。

 

長い間ありがとうございました。告知にはなりますが、わたくしが夢で見た内容を文章にしているのが実は一つや二つありまして、もしかしたら夢の着色してお届けするかもしれません。

 

ということでこの物語はおしまいです。少しでも読んでいただきありがとうございました。

embii

Memory of Your Voice Rust

【声の記憶】
気がつくと、見覚えのある路地に立っていた。後ろを振り返ると、ただ壁が寂しくおいてある。冬の寒さが肌を刺激し、夕方の商店街の隅で少し立たずんだ。僕はそこから動き出し抜けだすと、そこは親子が行き交う商店街。安堵と寂しさが胸を埋め流れない。僕は、周りの景色を眺めていると走り出した。向かっているのは家。図書館で思い出した目的。母さんと父さんがいなくなった理由。

まるであの時の時間が遅く流れていたかのように此処の時間は早く過ぎるように感じられた。ごく一般的な住宅街にある僕の家に着き扉を開ける。目の前には誰もいない静かな空間が待っていた。階段を上がる。二階は閉ざされ使われなくなった部屋が一つ。正面を通さんとばかりに立っている。誰もいない部屋の一つに入る。たった一つ、ノートが開いて転がっている。そこにはいつ残して、いつ知ったのか。いなくなった両親のことが書いてあった。日付は12月25日。サンタからの最悪のクリスマスプレゼントだった。もう、やり残すことはなかった。知っていた結末なのに、胸を締め付け現れる。時刻は5時を過ぎようとしている。その時、誰かが家に帰ってきた。ノート達をまとめ玄関に向かうと、そこには久しぶりに見た茶良がいた。暗い顔をしている。僕は階段を降り茶良の正面に立つと、「話をしたいな。」とだけ言い、ダイニングに行った。

しばらくして茶良がジュースを入れて椅子に座った。
一瞬話そうかためらったが、母さんの言われたとおり、すべての出来事を何も隠さずに話した。いなくなった理由。僕が図書館で体験し、最後に母さんと父さんにあったこと。途中から茶良は、泣きすぎて目が充血している。そしてすべてが話し終わったとき、突然涙を拭った妹がこういった。

「うん…わかった。」
彼女は二階に上がると部屋から凄い物音がしたあとに、静かになった。涙をためた僕の目は、今にも溢れんばかりに漏れ出している。僕は夜ご飯の支度など、一連の動きをした後、この出来事を忘れないようにノートに走り書きを残したあとに寝ることにした。

あの日から、なにもかもが普通の生活に戻り、そしてあの場所の記憶はもう、モヤがかかって鮮明に思い出せない。いつ書いたのかわからない紙にあった断片的な言葉を頼りに、空き時間に図書館について調べていた。ネットで調べてはいるものの、そこでは関係のない物ばかりが転がっている。わかっていながらも、僕はあの日の光景を信じて調べていた。

戻ってきてから3週間たっただろうか。昼にパソコンを見ていると、一つメールに通知が入っていることに気づく。タイトルはなし。迷惑メールかなと思いつつ、とりあえず開いてみると、一つの音声メッセージが入っていた。僕はなんとなく再生してみる。

東京都渋谷区路地裏

ノイズのかかった短い音声。たったそれだけだった。他には何もない。本当にただの迷惑メールかと思いすぐに消そうとマウスを押したとき、ふと音声の最後に何かが聞こえた。もう一度再生する。一番最後にノイズに混じったもの。一瞬だったが鮮明に聞き取れた。

*EFU*

その言葉には見覚えがあった。そして僕はしばらく沈黙し、そしてにわか雨のように財布とかばんを持ち下に駆け降りる。

「お兄、どこいくの」

茶良がびっくりしたようにこちらを見た。

「ちょっと思い出の場所に行ってくるよ。」

僕は乱暴に靴を履き、扉を開けた。

そう遠くはない。この送り主は間違いなくエフさんだった。あの図書館の記憶、あの声が教えてくれた。

ちょうど来た電車にのった。休日の昼間の電車は親子連れや学生で少し混み合っている。ぼくは落ち着かない気持ちで外を眺めていた。すると後ろの若い人たちの会話が意識もしないうちに入ってきた。

「知ってるか?こんな都市伝説 …」
一人の男がこんなことをつぶやく。
「は?(笑)都市伝説なんて信じてんの?あるわけ無いじゃん」
もう一人の声がそれを反応する。
「いやそれがさ、実体験らしくて、ある路地裏のめっちゃ奥に行くと喫茶店があるらしいんだけど、その喫茶店。別の日に行くとなくなってるんだってさ。しかも跡形もなく店があった雰囲気すら無いんだってよ。」

やばそれ。っともう三人目がいうと
「っでさその喫茶店は蒼髪の長身の男と茶ぱつの女子と金髪でパーカーのJKが働いてるんだってよ笑」

笑いながら男はいっている。が、こちらは確信をついていた。

その後までは聴き取れなかったが、確実だった。彼らはこの世界にいる。

僕は駅につくと走ってその路地を探した。ありそうなところを虱潰し探した。ビルの間から、ちょっとした路地まで。だが、いくら探してもまず入り組んでいるところすら見つからない。都会の眩しさが余計に捜索を邪魔した。


僕は公園で途方に暮れていた。本当にただの都市伝説で、僕は嘘の幻夢を見ていただけなんじゃないか。と思い始めていたとき、携帯がなる。

「渋谷区……320

僕は諦めたくなかった。もういちど、感謝を言いたかった。だから探した。どこまでもそしていつまでも。


そして日が少し赤く染まり始めたとき、

「おい、てめぇ。なんでここいんの?」
気づくとそこは使われなくなったような建物の中だった。
そして目の前には数人の男と一人の女が立っていた。疲れていた僕は何も返せず、引き返そうとしたとき、何処なのか考えるまもなく棒で僕を殴った。

衝撃で倒れ込む。男たちは笑いながらその後も蹴られたり叩かれたりした。それは止むことなく、僕を痛みつけた。頭が真っ白になり、何も考えられない。

(もう、しぬのかな。エフさん達ごめんなさい。)


その時僕の中で何かが語りかけてきた。
それはあの世界で僕をさんざん苦しめて、そして戦い、最後に協力したきたあの声 。

鎌の主だった。

「みんな待ってるよ。ほらまた意識を奪って暴れちゃうけどいいの?あのときのお前は勇敢で強かったじゃんか。あのときの覚悟はどうしたんだ?」


その時急に口角が上がる。
そして心の小さな火種に油が注がれた。

「ふざけんなよ...これ以上待たせたくねぇな。」

血に濡れた口を手で拭うと、僕はその手で
鎌を持つ形にして想像する。
あのときの感覚で。決して揺るがない覚悟を背負って。

すると、手から大きな金属の鎌が現れる。

立ち上がった僕を見てゲラゲラ笑っていた男たちは、このことに驚き、笑いがなくなり一歩また一歩と後退りしていた。

僕は状態を前に向けると、身体は純白のローブに身を包む、あの頃の形になっていた。
あの場所で食事人と戦い、そして執行者を止めた。時の表情が戻った。

アイツらはまた襲ってきたが僕の中で遅く感じていた 。全てをかわしたあと、僕は鎌の柄で男の胸部を強打しなぎ倒す。それを見て一人の男がポケットから銃を取り出す。

「化け物が!こいつで死ね!!」

その瞬間全て発泡した。太陽で輝く鉛玉が向かってきた。が、僕は六発すべて弾き返し、主を同様に鎌の柄でなぎ倒した。

すると他の男と女は逃げ、僕は装備をしまった。

「まだ使えたんだね。これ。ありがとう。」

しばらく疲れで動けなかったが、何とか立っていた。口からは血が。もう、戦った感覚はなくなり、目からは涙と感情が流れていた。

「こうしちゃいられない。」
そしてあの座標まで走って向かった。何度も何度も転びそうになって。人にぶつかって。

でも僕は負けない。あの場所に行くのだから

 

どれぐらい走ってどれくらい時間が立っただろうか。もう体中の感覚がなくなっている。水分が尽き、息もほぼしていなかった。その時微かなコーヒーと紅茶を混ぜた匂いを感じた。そこは路地裏前だった。僕は止まった。

「見つけた...」
ここがメールの場所。そして異世界への廊下。
かすれた声だったが生気はあった。

一歩だけ踏み入れる。温かい空気が侵入した足を包み込む。思い切り中へ全身を浸すと力がこきあげてきた。
あの頃の手の感覚。そして鼻を香らせるコーヒーと心を温める紅茶の匂い。そして何より記憶が感じられる。

そしてしばらく道並みに進むと、太陽の光が入ってこない所に灯りがついていた。あの暖かさ。

僕は扉をあけた。僕のフィナーレの先。エンドロールあとの満たされた空間に入り込んだ。


「いらっしゃい。ファイルくん。よく来たね。」
「ファイルくん久しぶりだね。」
「ファイルじゃん、この場所わかったんだな。」
「ファイル!来てくれたのかよ!」
それら声の持ち主を見るまでもなく
僕はすべてを思い出し、そして涙で顔を満たしていた。

 

 

「これが、彼の夢のようなありえない話。本当にこんなことがあるんでしょうかね?ある路地の最奥に、一つの灯りが冷たい空気を温めているところは、本当にあるのでしょうか。」


「あ、申し遅れました。私…


ルドルフ・エフ、と申します。この図書館の館長しています。おや?そんなに驚いてどうしましたか?えぇ、そうですね。もしかしたら、
お客様もここには一度足を踏み入れているかもしれませよ。


では、この物語はおしまいでございます。
ご来館ありがとうございました。」

終わり。

Iron Steam End

その広がった静けさが増し、不意に血痰を吐いた。

相当な疲労と敵の精神攻撃、横腹の傷が少しずつ体を蝕んでいた。もう持たない。そんなことが分かる。

こいつだけでも...生きさせよう。そう思い、そして決意した。私はラウンジに近づきポケットから紙をだす。

本当は渡したくなかった物は事前に用意し、自分の覚悟を試すものであった。

 

「これを持ってこの先の工場地帯に行け。そうしたら中にある紙のとおりに行動すればいい。」

 

私は笑って言った。心配させないように。ラウンジは眼を見開き、困惑している。

 

「でも、僕はコアさんと戦います。どれだけ相手がエリートでも...最後まで戦います!」

 

お互い拳に力が入る。二人が固めた決意がぶつかった瞬間だった。

 

「だめだ。お前が生きなくちゃどうする?こんなところで死んでほしくないんだ。お前には。」

 

「いやです。僕だってっ」

 

「いいから逃げろ!、お前だけはっ...」

 

言葉が詰まった。心がねじれるくらい痛い。私の役目を全うするためにはやらなくてはならない。

ラウンジは涙目だ。私まで泣きそうだな。

 

私はラウンジの背中を押した。服越しからでも震えているのが分かった。

 

「工場地帯は3キロもない。今なら間に合う。それがお前の役目だ。私はパークが受けた仕事を引き継がなくちゃいけないからな。」

 

うつむくラウンジが顔を上げた。

 

「死なないでください。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

コアさんは「わかってる。」と言ってくれてた。

そして、僕は言われた方向に向って走った。多くの死体の中には、軍やスカーの部隊の死体が転がっている。

 

僕は死んだ人の命の上で生きている。そんな気持ちを噛み締め、工場地帯の一角に走って行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「行ったな。良かったよ…。」

 

「いつまで寝てるんだパーク。仕事だぞ。」

 

片腕が千切れたパークは、もう目が笑うことすらできない。かろうじて立ち上がり言った。

 

「特にお別れは..いいのか。俺はやれて10人ぐらいだな。軍の主力大隊が、3つだと...6000人はいるな。」

 

「笑えるなそれは。でも目的は果たした。気のすむまで戦って、悪魔と言われるまで生きようか。」

 

爆発音とともに青い閃光が向かってきた。スカー及び国軍リバイアサン級主力大隊の連合軍。

その数と武装は私たちという存在を消すかの如く迫ってきていた。

パークは私が剣を握る間もないうちに敵に突っ込んでいった。私も...

 

「最後くらい、煙のように消えるのではなく、華のように散っていこうか!」

 

ギィィン

 

金属の音が煙のように、優しくそして汚く包んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はぁ…はぁ…」

 

目的地は廃工場の一つ。コアさんが昔潜んでいた所らしい。地図のとおりに向かうと、石で隠された穴の中に生活できるスペースがあった。僕は地面に座り込みバッグを置いた。

そして、さっき渡された袋を取る。中にはここ周辺のもっと詳細な地図と…写真が付いていた。

 

それは、コアさんと誰かが肩組みをして周りに笑顔の人たちが囲んでいる写真。

まだ左肩にIDがあった。そして肩を組んでいる少年のIDをみた。背筋が凍る。そして信じられない速さで心臓が鼓動する。

 

UIー6846。僕のID。

 

そして小さく書かれた認識コードの後ろには¤というマークがある。それは、同じ場所で作られた個体であることを差し、人間でいう家族の証であった。口からこんな言葉があふれてくる。

 

「お…お姉ちゃ..ん?」

 

その瞬間、ビルが崩れたのが見え、そして赤色に輝く信号弾があがった。軍の勝利宣言。僕はなんとかその場で立っていた。

そしてまたあの場所に戻っていった。

お姉ちゃんのところへ。

 

あっという間のさっきの時間が100倍遅く流れる。

必死に走る僕はもう、獣のように転んでは立ち上がりを繰り返して、荒廃した地から中心部へ向かった。

4ブロックには避難指示が出され、人が誰一人としていない中を僕は走っていった。

ビルが崩れた跡があり、さっきまでなかった腕や足が散乱していた。

 

ビルの残骸を登り中心地をみた。

 

そこには1つの塔があるだけだった。

 

そびえ立つ塔は、僕に絶望を与えた。

 

それは、多くの槍で串刺しにされたコアさん。

そして、下には四肢が切断され頭部が砕かれたパークさんらしき人が倒れていた。

足音を立てないように近づいた。僕は塔のすぐ横でずっと見上げた。絶望が与える感情の波にのまれながら。

 

目の前が滲んでいく。そして涙が溢れて流れた。その垣根から僕はあることに気づいた。

コアさんの手にはレコーダーがあった。最後に強く握った跡がある。僕はそっとそのレコーダーを取り再生した。

かすれた声で、なんとか喋っているようだった。

 

『ラウ…ンジ。お前が来たとき、少し疑ったんだ。生き別れの弟と出会うなんてことがあるのか…と。

最初は違うと思っていたんだ。でもチップと肌の模様で確信が、ついた。』

 

血を吐きながら録音されたメッセージを僕はただ聞いていた。

 

『ハル…まさか生きているとは思ってもなかったんだ。そして私の役目は、いや姉として、の役目は弟を守ることだからっ。お前だけは生きて欲..しい。』

 

『ハル、お前は優秀だし生きていける力もある。お前だけは生きてほしいんだ。』

 

しばらく合間が空き、照れくさそうな口調で言った。

 

『一つだけ….わがままを言わせてくれ。もし死体が残っていたらっ…この国が一望できるところに墓を立ててほしいな。パークも一緒に入れ‥てやってくれ。それぇっと、ポーチの中にあるパークの小物入れに12ブロックの永久移住券の引き換えがある。それでゆっくり過ごしてくれ。』

 

少しあいて最後のテープが回る。

 

『約束を守れない姉でごめんね。また過ごせて良かったよ。ありがとう。』

 

喋るような力もなくなっていた。だが、僕は無意識にそのテープを抱きしめていた。

上を見上げ、息を吸った。これだけは伝えたい。

 

「うん…ありがとう。わがまま叶えるよお姉ちゃん。」

 

僕は立ち上がり一つ一つ槍を抜いていく。血はもう出ない。青ざめた肌が見え、顔にひたたる涙が光って映った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

30年ぶりに晴れたらしい。僕は家を出て陽気に歩く。年に一週間しか訪れない春は温かい風を供給した。

 

「こんにちは、カイドおばさん。今日は温かいですね。」

 

おばあさんはニコッとして通り過ぎた。

ガレージから愛用のバイクを出しエンジンをかける。相棒に乗り東の丘に向かった。

春は本当に暖かく、あの時の寒さとは違かった。

鉄の冷たさではなく陽の光と風の暖かさだった。

 

バイクの音は前よりも呼吸をしている。

そんなことを考えながら丘に行った。

桜が咲き、草木がなびかれている。そんなところに僕は来た。

桜の樹の下には2つの墓。

一つは、わかる限りの昔の仲間。

そしてもう一つは....。

 

「姉さん、パークさん。今日は30年ぶりに晴れたよ。それに気持ちがいいね。」

 

墓にはレイコアとサイトパークの文字が書かれている。そして二人の武器が並べられていた。

僕は枯れた花を入れ替え、目を閉じて手を合わせた。

 

「今年で僕21歳だよ。あれからもう5年経ってるんだね。姉さんとパークさんたちのおかげで普通に暮らしてるよ。今日は言いたいことが山ほどあるんだ。」

 

少し間を開けて、瞑った眼を開いて言った。

 

「今度、僕結婚するんだ。仕事の人とね。また挨拶に来るよ、そのときにいっぱい話そう。きっとその日も晴れてると思うよ。いや晴れているよ。」

 

僕はたち上がり笑顔を見せた。この国で芽生えた。幸せとともに生きる意味を見つけたから。

 

「そういえば、こんなこともあったかな。」

 

僕は命の上で踊る人形だとしても、鉄のように強く生きてきた。だから

僕は煙のように儚く消えはしないよ。

この国で、きっと。

 

Iron Steam I

「なにかいるな。ビルの低層階だ。あと地下階段の入り口。」

 

パークは私たちの進行を止めた。

気づかなかったが、なにか機械が設置されている。これはもしかして。

 

「まずい。ワープ装置だ。しかもこれは…」

 

見たことがある。まさかあいつが来るとはな。

 

「すぐに物陰に隠れるぞ!」

 

私達は建物の後ろへ回りこむ。

 

「見覚えがあるみたいだな。なんなんだ。」

 

するとラウンジが口を開いた。

 

「あれは、5つ星のスカーです。遠距離を専門とした部隊で、装置を介して多方向から射撃します。それに、国軍との合同演習のデータでは、これを利用した揚陸作戦が実施されていました。」

 

「となると、移動する手間が省ける分、重装備にもなれば、多くの人員を配備できるわけか。それも間断なしに。」

 

そうですと、ラウンジが肯定した。

 

「スナイパーならレーザーサイトが見えるんじゃないのか?こっちから見えれば簡単だが。」

 

「彼らのレーザーサイトは彼らにしか見えないので、こちらから探すのは困難です。」

 

少し考える。こうしている間にもやつらは準備を始めているはずだ。もたもたはしてられない。

 

「なら、私が先に飛び出して他の遮蔽になるところに行くから、それで撃たれた方向で索敵しよう。」

 

「ですが、リスクが高すぎます。」

 

「今は時間がない。奴らに万全の準備をさせたら負ける。早めに行動しないと。」

 

「まぁ行動するのはいいことだが、お前の強さでもほぼ満身創痍の状態で飛び出しても蜂の巣にされるだけだ。俺が突っ込むからお前の銃で撃ち抜いてくれ。」

 

「っ…わかった。」

 

あの頃の記憶が頭をよぎる。後方援護か…

 

パークの合図で前方へ銃身を向けた。パークは一直線に次の遮蔽物へ向かていく。

案の定撃たれるが、それを見事にかわし到着する。

 

「どうだ。見えるか?」

 

パークからの通信では、結構体力を使っているように聞こえた。

 

「2人。正面の3階とその隣。」

 

撃てるなら撃て。っと通信が入る。私は心のなかで3つ数えた。

3...2...1...ガンッ”!!!

轟音と高熱が発せられ私の腕にある銃身から銃弾が打ち出される。

一発の銃弾は一人の頭を撃ち抜いた。

そして続けてもう一発放つ。

標的は狙われていることに気づき、すぐに消えた。

 

「くそ。パーク。一人逃した。」

 

「了解だ。お前も場所を移せ。銃声がでかすぎるせいでバレバレだぞ。」

 

後ろを警戒していたラウンジとビル伝いに別のところへ向かう。

 

「次いいぞ。」

 

私がパークに通信を送ったとき、ラウンジに呼びかけられた。

 

「コアさん!後ろに。」

 

すぐに後ろを見ると、多くの人影に囲まれていた。国軍の歩兵部隊だ。まずいことになった。

 

「パーク!聞こえるか。軍に囲まれた。交戦する。そっちはどうなんだ。」

 

「こっちは交戦中だ。」

 

っと金属音とともにスピーカーから聞こえてくる。

 

「コアさん。どうしましょう」

 

ここじゃ性がわるい。

 

「こっちだ!」

 

私はさっきの大通りへ出た 。そこにはパークがいる。

 

「完全に囲まれたな。」

 

パークは私に背中越しに話した。

 

「もっと暴れてもいいんだぞ。いい的じゃないか。」

 

「こっちはとっさのことだったから左肩に一発入れられてんだ。すまねぇが期待すんなよ。」

 

青く鈍い光が周りを囲む

 

「合図で一箇所を突破しようか。レイ。背中を少し頼む。ラウンジは俺についてきながら前方を焼いてくれ。」

 

パークとラウンジとは背中合わせで構える。

私は周りの視線をこちらに向けるために、飛び出した。その1呼吸ほど後にパークたちは突破を試みた。

唸る銃身を腕の限界まで振り回し、敵を撃ち抜こうとした。

 

「っ、くそ。痛てぇじゃねぇか。耐えられるかこれ。」

 

さすがに数が多すぎる。できるだけ速く移動して撃っているが、敵の銃撃が行動を制限する。そのせいで近接戦闘となり、速度が落ちたところを銃撃してくる。

だが、後ろではパークが戦闘を続けていた。

まだだ、まだ耐えないと。

私はコートを脱ぎ捨てた。動きの邪魔になる。

右手が限界を迎えそうになる。私は祈りながら放ち続けた。

もう少し。もう少しだけ耐えれば...

その時だった。上から何かが来る。そして体の後ろへと落ちた。一瞬で振り向く。そこに落ちていたのは腕。手首には見覚えのある時計があった。

 

「う、嘘だろ。そんなはずは。」

 

パークが負傷した。そのことで数秒頭が一杯になる。くそ。

私は来る敵に対してすぐに反応し殺す。そして、

後ろで大きな閃光が街を照らした。その後、部隊が撤退した。ラウンジがやったのか。

すぐにラウンジのもとへ向かう。

 

「何があった!パークは。」

 

「おう。ラウンジがいい感じにやってくれたみたいで敵を一掃できたよ。」

 

「お前、嘘だろ。」

 

肩から左の腕がなくなったパーク。想像もしなかった。

 

「銃撃隊と重装兵がいて動揺したな。なんとか倒したがな。」

 

「それにお前さんも心配してらんないぞ。」

 

体中に弾丸のかすり傷や刃物の傷がある。

正直体力もきつい。

するとだんだんと煙が足元を埋め尽くしているのに気づく。そして正面は完全に霧で覆われていた。

見えるのは青い光の集団。姿が見えた。

 

顔に3つの光がついた4足歩行の大型獣。昔に部隊を壊滅させたビーストだった。

 

「厄介なのが来たな。倒さないといけないのか。」

 

「ラウンジ。今完全に戦えるのはお前ぐらいだ。私達はできるだけ前で戦うから。頼んだぞ。」

 

あいつも消耗している。全員満身創痍だが、やりきるしかない。獣は私達を確認すると、一気に突進してくる。

 

あの時と同じだった。

 

「ラウンジ、格好の的だからな。」

 

そう言って前に走り出した。やつに遠くからの弾丸は効かない。なら至近距離で打ち込むまで。

 

「避けろ!」

 

パークの声に反射的に反応する。

すると、後ろから閃光が通り抜け、目の前を焼いた。

しかし、突進は続いていた。炎の壁を突っ切って来る獣に、私は銃身を前にし、左手にハルバードを構えて衝突した。口のようなところに銃口を持っていく。だが、獣の体重が重すぎるせいで吹き飛ばされてしまった。すぐに立ち上がり姿勢を整える。もう一回だ。もう一度接近し、今度はハルバードで足を突き刺した。硬い装甲でもハルバードは突き刺した。そして口に撃ち込む。

同時に獣の爪が横腹に刺さった。獣は内部から砕け散ってなくなった。なんとか痛みをこらえつつ立ち上がった。パークは片手なのにも関わらず、優性に立ち回り戦っていた。

 

残りは2匹。同時に相手するのは不可能だった。でも限界だとしても戦いに行った。ハルバードなら確実に殺せる。あとは自分の武器次第だから。

一匹に向かいハルバードを向ける。獣は手でハルバードを弾いた。そのときに撃ち込んだ。そして後ろから来たもう一匹になんとか腕を持ってきて正面から串刺しにした 。突き刺したハルバードの柄は、獣の歯で折れていた。

二匹が死んでるのを確認し、パークの方を見た。

 

「おい、パーク。そっちはどうだ…ッ!」

 

私はその姿に絶句した。獣の爪と大剣が交差し、お互いを突き刺している。ラウンジがパークに近寄って声をかけている。私はそっとラウンジをどかし、ゆっくり爪を抜いた。

ラウンジは涙を流している。

 

誰も動いていない静寂が広がった。

Iron Steam H

「そろそろここは出たほうがいいな。行くなら国外のあいつの家に行くのが賢明だろう。」

 

名案だ。私達は国外に行かなければ追跡は解けない。まだ残っているなら、ソウトカイラ。あの人の家に行くのが一番いい。

 

「すぐにでも行かないと封鎖されそうだからすぐに行くぞ。ラウンジ、準備してくれ。」

 

ここで逃げ切れればいい。

 

「どうやって行くかだな...。」

 

「だったら4ブロックまで移動して外に出るほうがいいな。国外を大回りするのは危ないだろうからな。」

 

目的地と真反対にいるという最悪の事態。地図をみながら考え、結果的に4ブロックを横断することに決定した。

ラウンジが素早く準備を終えてくれたおかげで傷口を慣らすことがあまりできなかったが、すぐに出発できた。パークのとっておきの裏口があるといい、そちらに行くとツタが絡まり入り口がわからなくなっている古い門があった。そのお陰で検問に気づかれずに12ブロックを出ることができた。

やけに静かな下道を通る。恐らく旧道路は封鎖か監視されているだろう。

下道には車以外見受けられない。

まるでなにかに怯えているように住民は閉じこもっていた。

 

「嫌な空気だな。随分走ってるけど誰も歩いていない。」

 

もうすぐで4ブロックへと入る。このまま誰も出てこないで欲しいものだ。

 

「ここまで軍が黙っているのがこえなぁ。」

 

ビル街の中、周りを見渡しながら、走る車をパークは止める。

 

「おい、どうした?ガス欠か。」

 

パークが指を差す。その先には、二人の人影が向かってきていた。パークが車から出た。

そして私達も車から離れ、その二人を観察した。霞んだ霧が取れたとき地面に鋭い矢が突き刺さった。

 

「あぶないな。お前らは挨拶に人を撃つのか?」

 

よく見ると矢の後ろ半分は別のところに転がっている。あいつが斬ったのか。あの速さの矢を打ち落とすとは。本当にバケモンだ。

 

「国外逃亡とは、そんな簡単には出れないことくらい分からなかったんですか?わざわざ12ブロックから来ても変わりませんよ 。」

 

「なぜそこまで私達に執着する。私達以外にも処理するべき奴らがいるだろうに。」

 

キルスが、マッチを取り出し、煙管に火をつけた。

 

「私達はお前達を処罰しなければ殺されるからな。それが看守という役目だ。」

 

眼鏡の男が言う。

 

「あなた方は無駄に粘ってくれるせいでこちらの身が危ないんですよ。今までは1日程度で処理できたのに。」

 

「ここで殺そうって訳か。だが俺らを殺そなんてそんな簡単には行かねぇぞ。久々に戦うんだ。全力でやらせてもらうか!」

 

パークの眼が蒼く輝く。いつもよりもテンションが上がっているのかすごい笑っている。

 

「レイ。あの坊主は俺が相手する。お前は昔の戦友とやらの相手をしてくれ。」

 

「わかった。負けんなよ。いくらお前でも一応看守だからな。」

 

こんな会話は久しぶりだな。ソウトカイラがいた時。私とパークでよく仕事を受け持っていた。

気持ちがだんだん高まるのを感じる。私はキルスの方へと歩いていった。

後ろでは大きい金属音が耳を刺してくる。キルスは、煙管をポーチに仕舞いこちらを見た。

 

「右目はどうだ。脳までは行ってなかったようで何よりだ。」

 

「本当に思ってるのか?」

 

そうだとも、といつもとは違う返事をしてきた。調子が狂うな。

 

「お前とは長く話したい。だからおとなしく捕まれ。」

 

「話したいだなんてな。天国、いや地獄で一生話せるからいいだろ。」

 

一瞬周囲を見渡した。パークと男は、もう視界からは消えていた。ラウンジもどこへ行ったのか見当たらなかった。するとなにかが、上から飛んで落ちてくる。

腕だ、それに包まれた衣服はパークのものではなかった。その腕を見てキルスは、つぶやいた。

 

「バニラめ。やらかしたか。」

 

数秒後、男がこちらへ来た。左腕が切断されている。

 

「お前は下がれ。私がやる。」

 

「いや!僕があいつの相手をする。お前こそ下がれ。」

 

「もう一度言う。下がれ。私がやる。」

 

バニラはそれを拒否した。その言葉を聞き、キルスは腰から刀を抜き、バニラに突き刺した。

バニラは口から血を吐く。紫の刀。あいつの武器の一つだ。刀とハルバートを使う。その刃には斬りつけただけで致命傷を負わせることのできる毒がにじみ出ている。

 

「足手まといだと言っているんだ。」

 

バニラはその場で倒れた。そしてキルスは、羽織っていたコートを脱ぎ捨て、背中にあるハルバートを手に取った。昔見たものと同じ。紫と黒の長いハルバートだ。

 

「昔の戦友を殺すのは心が痛いが、この国の幾度となく繰り返されていきたことだ。」

 

私は、剣を槍の形へと変化させた。ハルバート相手ならこれしかない。

 

「最後の戦いとして悔いなきものにしよう。」

 

キルスはそう言い放ち、こちらへと来た。紫の刃は音速のような速さで降りかかる。重量があるというのにまるで小刀のように扱い、火花を散らし続けた。ひたすら刃を弾き続け、一瞬隙が出来たときすかさず攻撃をする。それを繰り返していくうちに槍の刃は削れてきていた。

私は、一度キルスから離れた。

 

「そんな武器で戦うのか?お前の武器でも十分私と戦えると思うがな。」

 

頬から流れる血を舐めてこちらに笑いかけた。

銃身に沿うように刃を展開すればいいのかもしれない。だが、そんなことをしたらやつのハルバートを防ぐことはできない。距離を取って射撃することもこの道ではできそうになさそうだ。

 

いや、できるかもな。試してみよう。

息を整え、槍を左手で構える。一気に接近する。キルスも同時に接近してきた。

私は、右腕を後ろへ回し、槍を防御するように構えた。そして、やつの刃と私の刃がぶつかったとき、右手から武器を発現させ放った。ハルバートが瞬時に防弾したが、衝撃で大きく打ち上がった。すぐに突き刺そうとしたがうまく避けられた。

弾丸が直撃したハルバートは轟音を鳴らし地面に転がる。

 

キルスは笑った。

 

「そうだ。そうでなくちゃな。」

 

あいつはシャツの袖をまくり刀を構えた。

姿勢を低くした構えは、部隊にいた時とかわらない奴のスタイルだ。

お互いが本気で殺し合う。何度も互いの肌を傷つけ、抉っては姿勢を崩そうと必死になる。

それを続けているうちにキルスの刃の速度が明らかに落ちた。私はその時にキルスを蹴り飛ばし銃弾を放った。

 

「形勢逆転だな。これで終わってくれ。」

 

優秀な部隊の生き残った精鋭が最後の最後で殺し合うなんて。なんと無様なことか。

すぐに私は銃でキルスの足を吹き飛ばした。地面で手を使いなんとかこちらを向くキルスへ歩み寄る。

ボロボロになった槍を構えた。せめて苦しまないように。まぁ足は痛いだろうけど。

キルスはポケットから何かをとり出した。

 

「これだけ持っていてくれるか。」

 

受け取ったのはペンダントと写真。

シャルのみんなとの写真。そしてペンダント。それはある戦いで戦果を上げたときに受け取った大切なもの。私はポーチにそれらを入れ、槍に意識を向けた。

 

「今までありがとうな。地獄で会おうか。」

 

私は重い槍を服ごと突き刺した。

首の付け根に刺さった槍は、深くまで入り込み停止した。刃がボロボロのせいでうまく抜けない。

私はその刺さった状態をそのままにして、キルスの刀とハルバートを手に取った。

 

「使わせてもらうぞ。」

 

他のスカーの武器を使うときには拒否反応が出る。それは自分の精神と他の精神が反発し合うためである。

だが、しばらくは世話になりそうだ。私は車のある方に向かい歩きはじめた。

 

 

戻ると車の前でパークがタバコを吸っていた。

 

「よし、じゃぁ行くか。早く乗れ」

 

武器を抱え車に乗り込む。

もうすぐでこの国と悲劇から逃げることができる。壁がだんだんと近くなった来たときだった。

 

地面が崩れ、爆発した。衝撃で周りが揺れて何が起きているのかはわからない。すぐにドアを開ける。

ラウンジを車から引き出すと、ラウンジは車の先を指さして倒れ込んだ。

私は指の指す先を見た。鈍い蒼い光を放つ集団。ビルの側面や麓に大量にいた。

 

「とうとうお出ましみたいだな。」

 

国軍。前にパークが倒したのを見てから見ていない奴らだ。まぁ施設の時代はたまに合同で作戦をしていたが。

 

「気をつけろよ。数が多すぎる。パークも一人で片付けようなんて思うんじゃないぞ。」

 

一応注意をしておく。

 

「まぁ今は3人戦えるんだ。なんとかなるだろう。」

 

あまり話している時間はなさそうだった。完全に囲まれていた。蒼い閃光とは別にスカーの姿も見えた。ここで潰すらしい。情報が把握されているようであれば逃げる必要もない。

 

「俺は一人で十分だ。むしろそっちのほうが敵も攻撃しやすい。お前さんたちで後ろのスカーの奴らをやってくれ。」

 

パークが大剣を引き抜くと、”幸運を”といい走っていった。私達もやるか。

 

「私が前線を張るから、あの組織の時みたいに敵を焼き払ってくれ。」

 

開戦の信号弾が打ち上げられた。全方位から敵が来ている。私はキルスの武器を構え、突撃していった。

スカーの部隊は、ファイブスターではないがなかなかのやつら。そいつらを相手にすることになる。

私は息を吸い吐いて言い放った。

 

「シャルの実力を見してやるよ!」

 

アイツらはブリーフィングを受けてきているだろうから、私が元シャルの部隊員だといいうことぐらい知っているはずだ。だが、ひたすらに突っ込んでくるスカーは、衰弱している用に見えた。私にも勝てる。

一人と相手しているだけでは囲まれる。

試行錯誤しなが戦っているとき、多くの光の柱がスカーを貫いた。すさまじい熱量を持った光の柱は、装甲を纏った体を溶かし貫いた。大勢いたはずのスカーは今の一発でだいぶ死んだ。圧倒的数的不利の戦況がこの一発で変わったのだ。この量ならわたしだけでいける。だから…

敵と刃を交えながらラウンジへ大声で伝えた。

 

「ラウンジ!パークのところへ行くんだ!ここは私だけでいい。お前のその力で援護してやってくれ!。」

 

なんとか伝わったようでパークのいるビル街へ向かった。そして私は一人づつ確実に殺していった。

同じスカーという種のナカマとして、苦しまないように。

最後の一人を倒しきった。

 

足元には、多くの死体。だいたいは頭部を切断され、倒れ込んでいる。これがせめてもの償いであり、気遣いだった。だが、メインストリートの奥からまた誰かが来た。私は息を整えながらハルバートを構える。

少し霧がかったところをよく見てみると、蛇と星のマーク。

来たようだ。スカーの最高クラスの部隊。見るのは初めてだが、空気感からして 違う。一気に奴らにペースを持っていかれそうである。

 

「ファイブスターか。お前らは蛇。二番目の星か。」

 

胸に刻まれたヘビは、2番星の部隊だ。やっと姿を表した。

 

「裏切り者が。先行部隊を折ったか。だがここで死んでもらう。」

 

私は咥えた煙草を吐き捨て、武器を発現させた。

ーーーーーーーーー

「あーあ。また一人で戦うことにしちまった。結構疲れてるからなぁ。リヴァイアサン級じゃないだけましか。」

 

俺は剣を抜き、前方へ向ける。何回か手合わせしてるから大体の動きは俺にもわかる。ただ、数が多いという問題だ。レイたちに攻撃が行かないように間合いを詰めて戦うしかない。

俺は目の前の霧がかった景色が完全に見えなくなるまで待つ。そしてその瞬間に一気に先頭の奴らと戦った。

俺の剣はいつもよりも鼓動し、生き生きとしていた。兵士が武器を振り上げたのと、鼓動のタイミングが一致したとき、目の前の兵士は崩れ落ちる。そのまま流れるように次の標的へと視線を移す。そこへ剣が瞬時に向かい切り裂いていく。

そこへ大きな光が向かってきた。俺はすぐにその場を離れた。

 

「んあ。ラウンジか。もう終わったのか?レイはどうした?」

 

「コアさんは向こうでスカーと戦っています。一人で戦いたいとのことだったので。こちらで戦います。」

 

まぁあいつなら一人で問題はないだろうが、こいつが足手まといにならないことを祈るばかりになりそうだな。

一掃された兵士たちを見て一息つく。高威力の粒子線だが、範囲が狭いようだな。

路地裏などの狭いところなら効果は絶大だろうが、こんな中心地の真ん中じゃ単独は無理そうだな。

 

「ラウンジいいか。中央線で役割を区切る。俺が指示するからそっちの方向に広く撃て。お前の方には何が何でも行かせないようにする。だからいろんな方向に動くことになるからその都度指示していく。」

これでわかってくれると信じて俺は前に歩みだす。

後ろでバカでかい発砲音がするが、レイだろうな。こっちは第二回戦だ。あんなに飛ばしていたら向こうが持つかどうか。

前から機械馬に乗る兵士が来る。大きなランスを構えた機動騎馬兵。だが所詮は兵士。

俺は剣を前に突き出し、走り出した。敵のランスは突きと打撃以外の攻撃方法はない。ならば、大きく斬撃を繰り出せるこちらのほうが有利である。一回かわしてしまえば、小回りのきかない騎馬は、たやすく相手できるはずだ。

それに、今は騎馬隊の天敵がいる。

 

「ラウンジ。俺の背後にいるやつを撃て。俺に当てるなよ。」

 

後ろが輝き、馬に乗った的は避けることもできず落馬していく。その光景に騎馬隊がどよめいた。その瞬間に首を切り落としていく。時には胴体の鎧ごと凹ませて殺した。

相性が悪いと判断したのか、後続隊はすぐに退却していく。

ラウンジは無線で撃つかどうか言われたため、撃つなといった。無駄な精神消耗はこの後がきつくなる。

気にしておくが、後ろは大丈夫なのだろうか。

ーーーーーーーーーーー

右手が熱い。だが、そんなことに気づいたときには周りには死体がひろがる。だいぶ消耗してしまったようだ。

立ち上がろうとするスカーに問う。

 

「あと何人が私達に攻撃するか教えてほしい。」

 

答える義務はないと言う。剣を持とうとした手を切り落とし、もう一度問いただした。

 

「私達はあと何人と戦うこととなるんだ?」

 

スカーは、もうすぐ死ぬだろう。と言い逆の手で自らの命を絶った。私の身体はだいぶ皮膚に傷が入り、携行治療剤では個数が足りなそうだった。

私はパークたちの方に向かった。まぁいくら国軍とはいえ、パークがいるなら。きっと大丈夫だろう。

向かう先には2人と人影が見える。

 

「よく生きてたな。だが、だいぶ疲れている様に見えるな。」

 

「お前はまだ行けそうだな。ラウンジも大丈夫か。」

 

はい!っとまだ元気な返事で帰ってきた。

 

「今なら奴らはいなそうだ。今のうちに移動するか。」

 

私達は車にのり、治療も含めて休憩をした。

おそらく本部のやつらは、ファイブスターの失墜と、国軍の部隊の壊滅によってどよめきがあるだろうな。特にファイブスター2つ星の失墜に関しては。

次は三つ星か四つ星だろうな。1つ星は本部に居座る防衛隊だ。順序通りなら3だな。

 

「もうすぐ国外だ。ここからは車は捨てるぞ。」

 

私達は車から降り、荷物を持って向かう。

すると、パークが私達の進行を止めた。

 

Iron Steam G

正面の階段から降りてきたのは、体中機械だらけの大きな男。手にはガンランスガントレットが装着され、チェーンを体中に巻いている。そして、男が手を挙げると、ガントレットが光りだし、略奪品の中から同じ光が見えた。完全に包囲されている。私はラウンジを呼び、指示した。

 

「荷物に敵がいる。お前の力で全員薙ぎ払え。前からのやつは私がやる。」

 

ラウンジの能力なら、おそらくこの狭い空間では効果的だ。ラウンジの手が光りだし、杖が出てくる。

その杖を上に掲げそして精神力を粒子に変え熱を生み出していた。

私は前を向き集中した。重い鉄の塊。唸る銃身を整え、奴らが身構える前に放った。銃身から噴き出した蒸気はラウンジの杖から放たれる光に反射して周りを幻想的に照らした。撃ち出した銃弾はガントレットではじかれた。相当な代物だ。あれは、重い塊を爆発で撃ち出したエネルギーを打ち消す力を持っている。

 

「うわーーーーーーーあッ! !」

 

ラウンジが叫び出す。すると蒸気の煙を貫く粒子線が荷物を焼き切った。

その途端大きな悲鳴と瓦礫を作り出す音が鳴り響く。

向こうは目を見開きうろたえていた。私はその瞬間を見逃さずに、すぐに大男に近づき至近距離で胸部に尖った弾丸を撃ち込んだ。上がりかけていたガンランスと、防御しようとしたガントレットは無残に崩れ落ち、胸部に大穴を開けて男は死んだ。後ろから騒音を聞いて来たと思われる下っ端のようなやつは、大男の死体を見て降伏した。ボスが死んだと言いながら。

私は戦闘が終わり、武器を仕舞おうとしたとき、後ろから来たやつらが次々と悲鳴を上げ倒れ込むのを見た。ラウンジをこちらに呼び構えた。

来たのは魚の鱗柄のロングコートに身を包んだ二人の人間。一人はメガネをかけている。一方は帽子をかぶりキセルを咥えていた。

 

「か、看守かッ!」

 

そうだ。前に聞き込みに来た奴とは違う。だがあいつらは看守だ。

 

「居ましたね。やはり情報通りです。」

 

こちらを見てまた続けた。

 

「ハル・ラウンジさん。脱走と規律違反で拘束いたします。それに貴女は…」

 

すると隣のハットを被った女が口を開いた。

 

「久しぶりだな。レイ。何年ぶりだ?共鳴反応がないな。二人ともチップを取り出したか。」

 

「あれ、あなたの所属していた部隊はあなた以外全滅では…。」

 

「しぶとく生きたんだな。」

 

この声とあの尖った後ろ髪。そして煙管。

 

「キルス…お前看守になったのか。まぁあの状況で生き残ったなら妥当か。それにしてもなぜここがわかった。ここにはさっき来たばかりだったんだが。それにここじゃ悲鳴は普通だろうに。」

 

すると男が割り込むように言った。

 

「情報があるからこうして派遣されたんですよレイ=コアさん。また仕事が増えました。」

 

軽く構成員を倒す奴らだ。それに逃げ場がないから圧倒的に不利に近い。あたりを見ると、向こうのビルから光が見える。モールスだ。よく見ると、パークがガンフックの準備をしていた。なんて準備がいいのだか。私は窓に近づきながら合図を送る。そしてラウンジに飛ぶぞといい、窓に突っ込んだ。

飛んできたガンフックは見事にビルの壁に刺さった。ガンフックに掴まり下まで降りることができた。

だが、上から人影が映った。

 

「この程度も飛べないんて貧弱ですか?戦わないうちに能力も落ちてしまいましたか。」

 

流石に看守レベルは伊達ではないな。聞いた話じゃトップレベルのスカーから選出している。私レベルじゃそんなやつらを相手する力はない。

 

「では、おとなしく捕まってください。仕事が増えますので。」

 

止む終えない。本当はスカーを敵に回したくはなかったのだが。戦うしか生きるすべはないみたいだ。

私は腰から剣を抜いた。

 

「戦う意思ありですか…仕方ないですね。」

 

男はコートから大型の斧を取り出し、眼鏡をあげた。来るっ!

私は剣を使い斧の柄を受け止めた。男は斧をまるで短剣のように扱い、こちらのこちらをが攻勢を取らないように押し込んでいる。

 

「その程度ですか?前線の遊撃部隊の柱がこの程度ですか。」

 

「遊撃部隊だって?笑わせるな。あのどこが遊撃だ。それに私は後方手だ。上級のスカーなのにそんなのもわからんのか?」

 

段々と剣が削れていく。戦いはやがて一方的な消耗戦へと変わっていく。戦い方を変えようとしたとき、

もういいです。っと男がつぶやいた。私はその瞬間に右目に激痛を感じた。コートから出てきたのはクロスボウ。その矢が右目を命中させた。

痛みで倒れ込む。眼の前は暗黒と赤い世界。血が吹き出たせいで顔は血だらけになっていた。

終わりか。そう思った。恐らく脳には行ってないが、致命傷だろう。

赤くなった男が近づき、私にクロスボウを向けた。

そして引き金に手をかけた時、そこに誰かが割り込んだ。

 

大剣を男の腕に斬りつけ、蹴り飛ばす。

そして私を持ち上げ、逃げた。

そして眼の前が暗くなり、感覚が薄れていく。

そして意識を手放した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ピ、ピ、ピ…

一定の感覚で聞こえる電子音。

体の感覚が戻り始め、目を開ける。

ある部屋だった。医療機器が多くある白い部屋だった。

体を起こす。右目を開く。瞬きをしても暗黒が続き

左目しか機能していなかった。

私の灰色のコートが掛けられ、枕元には鞘に入れられた剣が置いてある。あの時一瞬だったが、右目をクロスボウで射抜かれたのを覚えている。

そしてパークが助けに来た。

 

「迷惑かけたかもな。」

 

コアさん!っと扉の方から声がした。

ラウンジだ。頬に絆創膏が貼ってある。そして右手には包帯を巻いていた。

 

「その包帯と傷はどうしたんだ?」

 

「えへへ。えーと、これは飛び降りたときにガラスが多少刺さったのと、能力を使いすぎて火傷しました。というかそんなことよりも!コアさん!右目は平気なんですか?痛みとか…」

 

「まぁ違和感はあるが、痛みは殆どない。眼帯でもしておけばいいだろうな。神経手術は高いし 。」

 

ラウンジは手荷物を置き、ベッドの横にある椅子に座った。

 

「あの時、パークさんが看守を攻撃してくれて。それでここまで運んできてくれました。」

 

それはありがたいな。あいつには借りばっかだ。

 

「行動が全部見透かされていましたね。どこから漏れたのでしょう。パークさんは白いスーツの男を調べるそうです。僕もそこからとしか思えません。」

 

まぁあいつか受付を疑うのが妥当な判断だろう。私はふぅっと息をつき、タバコを咥えた。

そして、あのっとラウンジが言い出した。

 

「聞きづらいんですけどいいですか。コアさんはあの帽子の女性と面識があったみたいでしたけど、一体部隊には何があったんですか?」

 

まぁいい頃合いか。

 

「そうだな。数年前だ。私のいた部隊は優秀な奴らが多くて、結構戦闘に駆り出されていたんだ。一時は単独部隊出撃で前哨基地を壊滅させたりもしたな。まぁ私は後ろで撃ってたから特に感じなかったんだが、ある時中々戦果が出ない時期があったらしい。変なミスが多くなったり怪我が重なって出撃が難しくなったり。それで本部が考えた末、私達を実験台にすることを決めたらしい。」

 

「なんで優秀な部隊を…戦果が出なかったとはいえ優秀なのには変わりないのに。」

 

「まぁそうだろうな。まぁ実験の話なんて聞かされていなかったから、久しぶりの戦いと聞いて部隊員は結構燃えていたな。そして作戦当日。ひどい霧だったが私達は国外の荒野で待機をしていたんだ。本部の連絡があるまで動かない予定だった。そして連絡が来たから突撃を開始した。敵の基地に突入したらまぁそこには誰もいなかった。びっくりしたよ。いるはずの対象がいないもんだから。でも、代わりに化け物がいた。それは頭にコードが入った奴らだったな。」

 

「そのコードって…スカーの。」

 

「そうだ。最初私達は新兵器でも投入したのかと考えていた。だが化け物が部隊員の一人を殺した。ただもんじゃないと思ったよ。仲間が仲間を意図的に殺すなんてな。それで濃い霧やら化け物やらで、みんなパニックになって、気づいたら隊長と私ともう一人。そうキルスだ。ボロボロの私達を見て隊長は自らを犠牲にして私達を生かしたんだ。」

 

ふぅっとお茶を口にする。

 

「私とキルスはなんとか戦線を抜け出して工場地帯へ逃げ込んだんだ。その時は絶望しかなかったよ。信じていた本部に裏切られたからな。しばらく近くの廃工場で生活していた。苦しいものだったが、なんとか耐え抜いた。そして連絡が来た。戻ってこいという感じだった。」

 

「コアさんはそこで逃げ出したんですか?」

 

「あぁキルスにもそう言ったな。『こんなところ逃げ出してしまおう』ってな。だがあいつは反対をした。命令に従えってな。二人とも疲れで気が立っていて揉め合いになったな。」

 

「そのあと別々に行動したんですか?」

 

「あの後、ずっとそこにいたら、本部が痺れを切らしたのか、たまたまなのかは知らないが、仲間を殺した奴らが工場地帯を徘徊していたんだ。それで完全に逃げ場をなくして、こっちに来たやつに見つかったんだ。それで戦いになって私は負傷した。だが、霧がひどい日でたまたま奴らに見つからなかったんだ。それでキルスに信号を送った。結構ひどい傷で動けなかったからな。」

 

私は服を上げて腹から胸部へ伸びる縫い跡を見せた。未だに跡は鮮明に残っている。

服を戻しもう一度お茶を口にする。

 

「それでキルスは来たんだが、あいつは私を助けずに霧へ消えた。まぁ喧嘩してたしこの状況では足手まといになるって感じてたんだろうな。そのあと、やつらはいなくなた。なんとか止血やら消毒やらしてその場で倒れ込んでいた。霧が晴れていって周りが見えるようになったときにある男に出会った。私の命の恩人だ。怪我をした私を見てすぐにその人の家まで運んでくれた。本当にありがたいと思ったよ。そして死が本当に怖いと感じた。」

 

私はかばんからファイルを取り出し、1枚の写真をラウンジに見してみる。そこには私とパーク。そして一人の男が写っている。猟銃を持ち、バックパックを背負った男だ。

 

「その銃を持った人が、ソウトカイラ。元国軍少佐だ。国外で狩猟をして生活していたやつだ。」

 

「自ら国外に出て生活をするなんて、危険ですし不便ですね。」

 

久しぶりに聞いた名だなっと扉から聞こえた。

 

「おぅレイ。よく寝れたか?前は出血がひどかったから脳みそがやられたと思ったがなんともなくて何よりだ。」

 

「パークさん!その血どうしたんですか!?」

 

パークのコートは血で染まっている。

 

「あいつに聞きに行ったらよぉ、壁から変なアンドロイドが出てきやがって、そいつらから血が出てきただけだ。あんなの目を瞑って片足でも片付けられる。そんで白い男に問い詰めたら、お前ら12ブロックにいる事バレてんぞってな。スカーからなにか行動があったら知らせろと言われたらしいな。」

 

パークはライターでタバコに火をつけた。

窓の外を見るパークはどこか不安げだ。

 

「どうした?なにか心配か?」

 

う~んと唸ったあと、どこかに語りかけるようにつぶやいた。

 

「いや、大したことじゃない。ただ組織のお偉いさんに国軍潰したのバレちまってなぁ。」

 

「それまずくないですか?まずパークさん組織いれるんですか?」

 

「いや、功績上一応いれるらしいが、国軍に追われる準備しとけって支部長に言われたな。軍は結構お怒りらしいからな。」

 

「あの時みたいに全員なぎ倒してくれれば心配はいらないが、お怒りってことは骨も残さないってことか。」

 

「でも、流石にここは12ブロックですし、攻撃は来ないですよね。」

 

12ブロックは独立と言っても変わりない。それが突き通るならここは絶対的に安全だ。

一部を除いてだが。

流れる国営テレビを眺めながら会話を続けていると、急に画面が変わり、軍の放送へと変わる。

 

「なんでしょう。嫌な予感がします。」

 

ラウンジはもうわかっていたのかもしれない。私達が狙われる日を。

『国軍本部より国民へ伝達いたします。』

愛想のいい男が伝えるとは、なんて邪悪なんだ 。

『先程より、以下の画像の2名を指名手配します。』

そこには私とパークが写っていた。ラウンジはいない。空間が凍りつくように固まったのがわかる。無理はないし、いつかはなると分かりきっていたことだ。なのに手が震え始める。

 

指名手配は国軍が重要機関に重大な損害を与えた人物などに指定するもの。国軍のリヴァイアサン級大隊と場合によってはスカーのトップであるファイブスターという5部隊が出撃したもの。過去に3回の指定があったが、ものの見事に指定された者たちは消滅している。

『指名手配の要請が受託されたため、12ブロックでの国軍及びスカーの侵入、武器の使用が許諾されたこと

を報告いたします。もしこの2名を見かけた場合は…』

 

ラウンジがテレビを消した。

 

「ど、どうするんですか。12ブロックにまで入ってくるなんて。どうするんですか。」

 

パークはなんとも言えない表情で眉間を押さえている。

 

あーすまねぇな。実はよ。」

 

「今更どうした。言い残したことでもあったか。」

 

「実は、帰ってくるときに看守に見つかって戦闘になったんだ。そんで粉々にしてきちまった。たぶんそれが引き金になったかもな。」

 

「お、おい。まじで言ってんのか。看守倒すって。護衛もいただろうにどうなってんだよお前は。」

 

恐ろしい限りだ。私までも殺されそうである。でもそのくらい心強い味方がいるわけだ 。

 

「そろそろここは出たほうがいいな。行くなら国外のあいつの家に行くのが賢明だろう。」

Iron Steam F

朝になり、私は朝飯を作るために早く起きた。

適当にありあわせのもので朝食を作り、他の奴らが起きるまでパソコンで色々調べてみる。

ふと地図を確認しているとき、そういえばと思い出した。前に看守につけたGPSが稼働しているか確認してみた。

 

「まぁそうだよな。ちぇ。」

 

やはり反応は途絶え、悲しいことに大金がパーになった。まぁいいか。おそらくしばらくは会わないだろうし。

 

「おう。早いな。」

 

後ろからパークの声が聞こえる。

 

「起きたか。そのままで悪いがラウンジを呼んできてくれないか?飯が冷めちまう。」

 

ーーーーーーーーーーーー

コアにそう言われ俺はラウンジの部屋に向かう。

眼の前には大の字で寝るラウンジ。特に俺は考えないで普通に起こす。

 

「お〜うラウンジよ。朝だぞ起きろ〜。」

 

 

「そいつは叩き起こせ。そんなんじゃ起きねーよ駄々こねて。」

 

はーんそうか。叩き起こすかぁ。

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「うぎゃーーーー!」

 

は?私は食事の準備の手を止める。

 

「何やってんだよまじで。」

 

急いで寝室に向かう。寝室には壁に飛ばされフックで引っ掛かった布団と、ベッドで頭を抱えるラウンジがいる。

 

「おいおい何やってんだか。どんぐらいの強さでやった?」

 

壁によりかかっているパークは、ノミを飛ばすくらいと言った。簡単な例えだが、聞いた話ではりんごにデコピンで穴をあけるらしい。

 

「叩かな起きねぇって言ったから弱めにやったんだがなぁ予想以上にぶっ飛んじまったなぁハッハッハッ。」

 

 

「まぁいい刺激になったかもな。」

 

「まぁじゃないです!い、痛いですよ!。」

 

痛がりつつも立ち上がりダイニングで食事を済ませ、役所に向かった。パークはあらかたやり方知っているようで、全て一任することにした。

 

中心の大通りを道なりに進むと、大きなログハウスが見えてきた。

衛兵が所々に見える。あれが役所らしい。

12ブロックの最北部に位置する施設は、噂によると外見とは裏腹に地下に数十階までものフロアがあり色々な情報を管理していると聞いた。

街中の隠し監視カメラで街中を見渡し、犯罪が起こっていないかを確認しているとパークが言った。

役所の入り口を入り地下への階段を下る。

地上階は木造なのに対して地下は白い壁の都市的なデザインだった。

道の奥の奥。そこは大きな受付に一人座っている謎の部屋だった。

 

「どのようなご用件ですか?」

 

受付の女性は近づく私達に質問をした。

よく見ると女性は真っ白の肌で作られている。

 

「よう、嬢ちゃん。アンドロイドが受付なんて珍しいなぁ。それにここは移住権のことしかやってないだろう?とっととやってくれ。」

 

立ち上がり普通に歩いていくが、アンドロイドはロボット以上に大丈夫なのか?AIは政府しか使用許可が出ていないはずだが。

 

「お客様アンドロイドとは失礼な。彼女はAIなんかではございませんよ。人間の脳みそで動いています。」

 

誰かが後ろからくる 。

振り向くと先には白色のスーツを着た一人の男が居た。

 

「でも体は機械だ。」

 

私がそう言うと男は笑いながらメガネを掛け言ってきた。

 

「ご存知ないのですか?体を改造するのと同義なんですよ。だから軍が来る心配もない。」

 

なるほどな。そういう体にしとけばバレてもいいわけか。

 

「準備ができました。」

 

女性はなにやら六角柱のちいさな箱を持ってくる。パークはそれをふ上下に軽く振り穴から何か棒を出した。

 

「3.4.9.1.4.だな。」

 

パークは番号を伝えると女性は紙を手渡した。

パークはその紙を開かずに私に開きなと言い回してきた。とりあえず開けて文章を確認する。

 

「13ブロックで子供3人に爆弾を渡し、近くの飲食店で食事をした後強盗事務所を襲撃しろ。だってさ...」

 

「まぁ楽だな。襲撃は俺はできないからな。お前らでやってくれ。俺はそれ以外をやろう。立場上無差別な殺しは無理だからな。」

 

まぁそうだろうな。警察という組織上、掟を破ることは重罪だし断罪されるだろうな。

 

「じゃぁ簡単な偵察とか指示を頼もうか。間接的だがバレなきゃいいだろう。」

 

私はもう一度紙を見た。こんな簡単だとは聞いていない。なにか恐ろしいことが起こる予感が私はしていた。

私達は役所を出て12ブロックの城壁を抜けた。そしてパークの車に乗る。向かう先は13ブロックの東部。与えられた任務さえこなせばいいだけだ。

13ブロックの中央駐車場で降り東部へ向かう。

隣のブロックということから10分もたたずについた。


「こっからが東部だな。任務通り行うとしよう。パーク指示いけるか?」

 

パークには近くのビルの屋上へ行ってもらい、屋根伝いに指示をしてもらうことにした。

 

「いいぜ。近くに小学校がある。そこの周辺で渡せるだろう。小さいからプレゼントと間違えるだろうな。」

 

指示された地点へ向かい私は一人の子供に声をかけた。

 

「き、君。ここの学校の子かな?担任の先生にこれ渡してもらえるかな?」

 

突然陰から話しかけたせいでびっくりしてしまい、男の子は泣きそうな顔をし始めた。まずいな…

 

「ほら!お菓子もあるよ!これで渡してくれる?」

 

いい感じにラウンジがフォローしてくれた。

あのお菓子好きが大事な菓子をあげるなんて…

そのあと二人に同じことを頼み菓子を渡した。

案の定お菓子が少なくなりラウンジは悔やんでいた。まぁおかげでうまく行ったことだし後で菓子でも買っておけばいいか。

次にレストランへ。パークも一緒に入り食事をする。

 

「とりあえず2つ終わったが、次が問題だな。強盗系とは触れ合ってないからな。」

 

「まぁそうだな。簡単に言うと強盗系といっても今までの経験上そんなに重武装なのは見たことねぇ。調べた限りでもあってもでかい武器はガンランスぐらいだな。」

 

こういう時にいてくれると助かるな。経験があるからわかりやすい。

 

「客と見せかければいいか?」

 

それに対し、エビを突き刺したパークが少し唸って言った。

 

「それがあそこは電話でしか受け付けてねぇからなぁ入るときが問題になるんだよ。まぁ正面突破でもいいが。」

 

しばらく考えた結果普通に平然を装って行くことにした。間違えた体ならいいだろうということだ。

レストランを出て今度は西部に向かった。

13ブロック西部はほぼ裏路地だ。風俗からヤクザまでいろいろ。

人々は歌舞伎街なんて呼んでいる。そこの外れのビル丸々が今回のターゲットだ。

もしすべてのフロアが使われているなら最低30人以上はいるだろうな。ラウンジは緊張しているが、今回はあいつの戦いを見るチャンスでもあり、武器の本当の力を見る機会でもある。

ラウンジを前に立たせよう。

私はラウンジにスカーはそう死なないと言い、入り口に入った。

見かけは普通のビルの内装で、受付と待合席のあるエントランスだった。

ただ受付がいないだけ。まぁ上層階だろう。ガスマスクを身に着け階段に行く。

この辺の輩なら平気で毒ガスを使ってくる。大企業顔負けの技術が溢れかえっているから、弱小でも気をつけなければ命取りになる。

上から話し声が聞こえる。上を見つつ階段を上がっているとき、誰かが声をかけた。

 

「貴様ら誰だ?」

 

眼の前には少し大柄の男。手には両刃のメイスを持っている。

 

「すみません。受付がいなかったものでして。どこで受付を済ませればいいですか?」

 

その瞬間左手で殴られた。

 

「てめぇなにもんだ。ここは遊び場じゃねぇんだぞ。」

 

すると声を聞いたのか上から数人の足音が聞こえる。もうやるしかないか。ボスの近くで暴れたかったがしょうがない。

 

私は剣を取り出し鞘から抜いた。

前は鞭だったが、今回は高熱の槍に姿を変えすぐに男に突き刺した。やっぱり便利だな。

 

「ラウンジ、階段を登るぞ。後ろから上のやつを撃ち抜け。行けるだろ。」

 

ラウンジにそう伝え階段をのぼる。槍なら突き刺せるし前に構えるだけで威嚇になる。

ビルの5階。少し広いところに出た。そこは多くの荷物がおいてあった。荷物というより略奪品だな。

武器や鎧、女性物の下着や鞄が大量に置いてある。

向かいのドアから上の階に行けるようだった

私達が広場の中を通り、進んでいると

 

「カモが来た見てぇだな。」

 

正面から声が聞こえた。