Iron Steam H
「そろそろここは出たほうがいいな。行くなら国外のあいつの家に行くのが賢明だろう。」
名案だ。私達は国外に行かなければ追跡は解けない。まだ残っているなら、ソウトカイラ。あの人の家に行くのが一番いい。
「すぐにでも行かないと封鎖されそうだからすぐに行くぞ。ラウンジ、準備してくれ。」
ここで逃げ切れればいい。
「どうやって行くかだな...。」
「だったら4ブロックまで移動して外に出るほうがいいな。国外を大回りするのは危ないだろうからな。」
目的地と真反対にいるという最悪の事態。地図をみながら考え、結果的に4ブロックを横断することに決定した。
ラウンジが素早く準備を終えてくれたおかげで傷口を慣らすことがあまりできなかったが、すぐに出発できた。パークのとっておきの裏口があるといい、そちらに行くとツタが絡まり入り口がわからなくなっている古い門があった。そのお陰で検問に気づかれずに12ブロックを出ることができた。
やけに静かな下道を通る。恐らく旧道路は封鎖か監視されているだろう。
下道には車以外見受けられない。
まるでなにかに怯えているように住民は閉じこもっていた。
「嫌な空気だな。随分走ってるけど誰も歩いていない。」
もうすぐで4ブロックへと入る。このまま誰も出てこないで欲しいものだ。
「ここまで軍が黙っているのがこえなぁ。」
ビル街の中、周りを見渡しながら、走る車をパークは止める。
「おい、どうした?ガス欠か。」
パークが指を差す。その先には、二人の人影が向かってきていた。パークが車から出た。
そして私達も車から離れ、その二人を観察した。霞んだ霧が取れたとき地面に鋭い矢が突き刺さった。
「あぶないな。お前らは挨拶に人を撃つのか?」
よく見ると矢の後ろ半分は別のところに転がっている。あいつが斬ったのか。あの速さの矢を打ち落とすとは。本当にバケモンだ。
「国外逃亡とは、そんな簡単には出れないことくらい分からなかったんですか?わざわざ12ブロックから来ても変わりませんよ 。」
「なぜそこまで私達に執着する。私達以外にも処理するべき奴らがいるだろうに。」
キルスが、マッチを取り出し、煙管に火をつけた。
「私達はお前達を処罰しなければ殺されるからな。それが看守という役目だ。」
眼鏡の男が言う。
「あなた方は無駄に粘ってくれるせいでこちらの身が危ないんですよ。今までは1日程度で処理できたのに。」
「ここで殺そうって訳か。だが俺らを殺そなんてそんな簡単には行かねぇぞ。久々に戦うんだ。全力でやらせてもらうか!」
パークの眼が蒼く輝く。いつもよりもテンションが上がっているのかすごい笑っている。
「レイ。あの坊主は俺が相手する。お前は昔の戦友とやらの相手をしてくれ。」
「わかった。負けんなよ。いくらお前でも一応看守だからな。」
こんな会話は久しぶりだな。ソウトカイラがいた時。私とパークでよく仕事を受け持っていた。
気持ちがだんだん高まるのを感じる。私はキルスの方へと歩いていった。
後ろでは大きい金属音が耳を刺してくる。キルスは、煙管をポーチに仕舞いこちらを見た。
「右目はどうだ。脳までは行ってなかったようで何よりだ。」
「本当に思ってるのか?」
そうだとも、といつもとは違う返事をしてきた。調子が狂うな。
「お前とは長く話したい。だからおとなしく捕まれ。」
「話したいだなんてな。天国、いや地獄で一生話せるからいいだろ。」
一瞬周囲を見渡した。パークと男は、もう視界からは消えていた。ラウンジもどこへ行ったのか見当たらなかった。するとなにかが、上から飛んで落ちてくる。
腕だ、それに包まれた衣服はパークのものではなかった。その腕を見てキルスは、つぶやいた。
「バニラめ。やらかしたか。」
数秒後、男がこちらへ来た。左腕が切断されている。
「お前は下がれ。私がやる。」
「いや!僕があいつの相手をする。お前こそ下がれ。」
「もう一度言う。下がれ。私がやる。」
バニラはそれを拒否した。その言葉を聞き、キルスは腰から刀を抜き、バニラに突き刺した。
バニラは口から血を吐く。紫の刀。あいつの武器の一つだ。刀とハルバートを使う。その刃には斬りつけただけで致命傷を負わせることのできる毒がにじみ出ている。
「足手まといだと言っているんだ。」
バニラはその場で倒れた。そしてキルスは、羽織っていたコートを脱ぎ捨て、背中にあるハルバートを手に取った。昔見たものと同じ。紫と黒の長いハルバートだ。
「昔の戦友を殺すのは心が痛いが、この国の幾度となく繰り返されていきたことだ。」
私は、剣を槍の形へと変化させた。ハルバート相手ならこれしかない。
「最後の戦いとして悔いなきものにしよう。」
キルスはそう言い放ち、こちらへと来た。紫の刃は音速のような速さで降りかかる。重量があるというのにまるで小刀のように扱い、火花を散らし続けた。ひたすら刃を弾き続け、一瞬隙が出来たときすかさず攻撃をする。それを繰り返していくうちに槍の刃は削れてきていた。
私は、一度キルスから離れた。
「そんな武器で戦うのか?お前の武器でも十分私と戦えると思うがな。」
頬から流れる血を舐めてこちらに笑いかけた。
銃身に沿うように刃を展開すればいいのかもしれない。だが、そんなことをしたらやつのハルバートを防ぐことはできない。距離を取って射撃することもこの道ではできそうになさそうだ。
いや、できるかもな。試してみよう。
息を整え、槍を左手で構える。一気に接近する。キルスも同時に接近してきた。
私は、右腕を後ろへ回し、槍を防御するように構えた。そして、やつの刃と私の刃がぶつかったとき、右手から武器を発現させ放った。ハルバートが瞬時に防弾したが、衝撃で大きく打ち上がった。すぐに突き刺そうとしたがうまく避けられた。
弾丸が直撃したハルバートは轟音を鳴らし地面に転がる。
キルスは笑った。
「そうだ。そうでなくちゃな。」
あいつはシャツの袖をまくり刀を構えた。
姿勢を低くした構えは、部隊にいた時とかわらない奴のスタイルだ。
お互いが本気で殺し合う。何度も互いの肌を傷つけ、抉っては姿勢を崩そうと必死になる。
それを続けているうちにキルスの刃の速度が明らかに落ちた。私はその時にキルスを蹴り飛ばし銃弾を放った。
「形勢逆転だな。これで終わってくれ。」
優秀な部隊の生き残った精鋭が最後の最後で殺し合うなんて。なんと無様なことか。
すぐに私は銃でキルスの足を吹き飛ばした。地面で手を使いなんとかこちらを向くキルスへ歩み寄る。
ボロボロになった槍を構えた。せめて苦しまないように。まぁ足は痛いだろうけど。
キルスはポケットから何かをとり出した。
「これだけ持っていてくれるか。」
受け取ったのはペンダントと写真。
シャルのみんなとの写真。そしてペンダント。それはある戦いで戦果を上げたときに受け取った大切なもの。私はポーチにそれらを入れ、槍に意識を向けた。
「今までありがとうな。地獄で会おうか。」
私は重い槍を服ごと突き刺した。
首の付け根に刺さった槍は、深くまで入り込み停止した。刃がボロボロのせいでうまく抜けない。
私はその刺さった状態をそのままにして、キルスの刀とハルバートを手に取った。
「使わせてもらうぞ。」
他のスカーの武器を使うときには拒否反応が出る。それは自分の精神と他の精神が反発し合うためである。
だが、しばらくは世話になりそうだ。私は車のある方に向かい歩きはじめた。
戻ると車の前でパークがタバコを吸っていた。
「よし、じゃぁ行くか。早く乗れ」
武器を抱え車に乗り込む。
もうすぐでこの国と悲劇から逃げることができる。壁がだんだんと近くなった来たときだった。
地面が崩れ、爆発した。衝撃で周りが揺れて何が起きているのかはわからない。すぐにドアを開ける。
ラウンジを車から引き出すと、ラウンジは車の先を指さして倒れ込んだ。
私は指の指す先を見た。鈍い蒼い光を放つ集団。ビルの側面や麓に大量にいた。
「とうとうお出ましみたいだな。」
国軍。前にパークが倒したのを見てから見ていない奴らだ。まぁ施設の時代はたまに合同で作戦をしていたが。
「気をつけろよ。数が多すぎる。パークも一人で片付けようなんて思うんじゃないぞ。」
一応注意をしておく。
「まぁ今は3人戦えるんだ。なんとかなるだろう。」
あまり話している時間はなさそうだった。完全に囲まれていた。蒼い閃光とは別にスカーの姿も見えた。ここで潰すらしい。情報が把握されているようであれば逃げる必要もない。
「俺は一人で十分だ。むしろそっちのほうが敵も攻撃しやすい。お前さんたちで後ろのスカーの奴らをやってくれ。」
パークが大剣を引き抜くと、”幸運を”といい走っていった。私達もやるか。
「私が前線を張るから、あの組織の時みたいに敵を焼き払ってくれ。」
開戦の信号弾が打ち上げられた。全方位から敵が来ている。私はキルスの武器を構え、突撃していった。
スカーの部隊は、ファイブスターではないがなかなかのやつら。そいつらを相手にすることになる。
私は息を吸い吐いて言い放った。
「シャルの実力を見してやるよ!」
アイツらはブリーフィングを受けてきているだろうから、私が元シャルの部隊員だといいうことぐらい知っているはずだ。だが、ひたすらに突っ込んでくるスカーは、衰弱している用に見えた。私にも勝てる。
一人と相手しているだけでは囲まれる。
試行錯誤しなが戦っているとき、多くの光の柱がスカーを貫いた。すさまじい熱量を持った光の柱は、装甲を纏った体を溶かし貫いた。大勢いたはずのスカーは今の一発でだいぶ死んだ。圧倒的数的不利の戦況がこの一発で変わったのだ。この量ならわたしだけでいける。だから…
敵と刃を交えながらラウンジへ大声で伝えた。
「ラウンジ!パークのところへ行くんだ!ここは私だけでいい。お前のその力で援護してやってくれ!。」
なんとか伝わったようでパークのいるビル街へ向かった。そして私は一人づつ確実に殺していった。
同じスカーという種のナカマとして、苦しまないように。
最後の一人を倒しきった。
足元には、多くの死体。だいたいは頭部を切断され、倒れ込んでいる。これがせめてもの償いであり、気遣いだった。だが、メインストリートの奥からまた誰かが来た。私は息を整えながらハルバートを構える。
少し霧がかったところをよく見てみると、蛇と星のマーク。
来たようだ。スカーの最高クラスの部隊。見るのは初めてだが、空気感からして 違う。一気に奴らにペースを持っていかれそうである。
「ファイブスターか。お前らは蛇。二番目の星か。」
胸に刻まれたヘビは、2番星の部隊だ。やっと姿を表した。
「裏切り者が。先行部隊を折ったか。だがここで死んでもらう。」
私は咥えた煙草を吐き捨て、武器を発現させた。
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「あーあ。また一人で戦うことにしちまった。結構疲れてるからなぁ。リヴァイアサン級じゃないだけましか。」
俺は剣を抜き、前方へ向ける。何回か手合わせしてるから大体の動きは俺にもわかる。ただ、数が多いという問題だ。レイたちに攻撃が行かないように間合いを詰めて戦うしかない。
俺は目の前の霧がかった景色が完全に見えなくなるまで待つ。そしてその瞬間に一気に先頭の奴らと戦った。
俺の剣はいつもよりも鼓動し、生き生きとしていた。兵士が武器を振り上げたのと、鼓動のタイミングが一致したとき、目の前の兵士は崩れ落ちる。そのまま流れるように次の標的へと視線を移す。そこへ剣が瞬時に向かい切り裂いていく。
そこへ大きな光が向かってきた。俺はすぐにその場を離れた。
「んあ。ラウンジか。もう終わったのか?レイはどうした?」
「コアさんは向こうでスカーと戦っています。一人で戦いたいとのことだったので。こちらで戦います。」
まぁあいつなら一人で問題はないだろうが、こいつが足手まといにならないことを祈るばかりになりそうだな。
一掃された兵士たちを見て一息つく。高威力の粒子線だが、範囲が狭いようだな。
路地裏などの狭いところなら効果は絶大だろうが、こんな中心地の真ん中じゃ単独は無理そうだな。
「ラウンジいいか。中央線で役割を区切る。俺が指示するからそっちの方向に広く撃て。お前の方には何が何でも行かせないようにする。だからいろんな方向に動くことになるからその都度指示していく。」
これでわかってくれると信じて俺は前に歩みだす。
後ろでバカでかい発砲音がするが、レイだろうな。こっちは第二回戦だ。あんなに飛ばしていたら向こうが持つかどうか。
前から機械馬に乗る兵士が来る。大きなランスを構えた機動騎馬兵。だが所詮は兵士。
俺は剣を前に突き出し、走り出した。敵のランスは突きと打撃以外の攻撃方法はない。ならば、大きく斬撃を繰り出せるこちらのほうが有利である。一回かわしてしまえば、小回りのきかない騎馬は、たやすく相手できるはずだ。
それに、今は騎馬隊の天敵がいる。
「ラウンジ。俺の背後にいるやつを撃て。俺に当てるなよ。」
後ろが輝き、馬に乗った的は避けることもできず落馬していく。その光景に騎馬隊がどよめいた。その瞬間に首を切り落としていく。時には胴体の鎧ごと凹ませて殺した。
相性が悪いと判断したのか、後続隊はすぐに退却していく。
ラウンジは無線で撃つかどうか言われたため、撃つなといった。無駄な精神消耗はこの後がきつくなる。
気にしておくが、後ろは大丈夫なのだろうか。
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右手が熱い。だが、そんなことに気づいたときには周りには死体がひろがる。だいぶ消耗してしまったようだ。
立ち上がろうとするスカーに問う。
「あと何人が私達に攻撃するか教えてほしい。」
答える義務はないと言う。剣を持とうとした手を切り落とし、もう一度問いただした。
「私達はあと何人と戦うこととなるんだ?」
スカーは、もうすぐ死ぬだろう。と言い逆の手で自らの命を絶った。私の身体はだいぶ皮膚に傷が入り、携行治療剤では個数が足りなそうだった。
私はパークたちの方に向かった。まぁいくら国軍とはいえ、パークがいるなら。きっと大丈夫だろう。
向かう先には2人と人影が見える。
「よく生きてたな。だが、だいぶ疲れている様に見えるな。」
「お前はまだ行けそうだな。ラウンジも大丈夫か。」
はい!っとまだ元気な返事で帰ってきた。
「今なら奴らはいなそうだ。今のうちに移動するか。」
私達は車にのり、治療も含めて休憩をした。
おそらく本部のやつらは、ファイブスターの失墜と、国軍の部隊の壊滅によってどよめきがあるだろうな。特にファイブスター2つ星の失墜に関しては。
次は三つ星か四つ星だろうな。1つ星は本部に居座る防衛隊だ。順序通りなら3だな。
「もうすぐ国外だ。ここからは車は捨てるぞ。」
私達は車から降り、荷物を持って向かう。
すると、パークが私達の進行を止めた。