Iron Steam E

...............

 

「大丈夫か?」

 

ラウンジはコートも着ていなく寒いだろう。

私は、ヘルメットとか着けているが、それでも十分に寒い。

北部にある12ブロックは、基本的に一年中寒い。壁に囲まれた12ブロックは、ほぼ別の国と言っても過言ではない。服越しでも伝わる震えだったので私は一旦バイクを止め、コートでラウンジを包んだ。

 

「とりあえずこれで12ブロックまで行くからな。我慢してくれよ。」

 

少し返事はなかったが、運転に気を付けつつ12ブロックに行った。

しばらくツラツラと運転をしていると、中心街のそばを走っていることに気づいた。その街は光を周辺にまき散らしている。旧道路を走っているのは私達だけ。半径30kmに及ぶ中心地は太陽と言ってもいいぐらいの輝きを常に放っている。この国の人々は太陽に還るために争い、奪い、大切な人であっても裏切る。それが自分のためになるのなら。

もうすぐ昼だというのに空は曇っている。これは天候ではない。人間の発展。国が意図的に生み出した、産業の不物だ。前回は25年前。7時間の間晴れた。その時は、みな手を止め、争いすらもやめ、ただ光を見つめていた。短い光はいろいろな感情を人々に与え消えていく。そしてこの国に戻る。

 

「ラウンジ、もうすぐで12ブロックにつくから、検問の準備しとけよ。」

 

だんだんと大きくなっていく絶壁は雲を突き抜けている。11月中旬は、南と西は温かいが、北は雪が積もる。つまり、壁の向こうは銀世界である。

検問は近い、もう降りるか。

バイクを降り押しながら100mの道を進む。10人程度の検問警備が焚き火を囲んでいた。

ラウンジは凍えこちらを見上げている。不意に少し笑ってしまった。目で何かを訴えてくる姿は面白いな。

 

「ん?珍しいなぁ。旧道路を使うやつがいるなんて。それに懐かしいなバイクは。」

 

少し年老いた男が近づきながら言ってきた。よく見ると、ほとんどが老けている。

こんなんじゃ私でも突破できてしまうな。それほど使われない道というわけだ。

 

「証明書類だ。1ヶ月くらいは世話になる。足りないものはないな?」

 

男はうなずくとこう私達に告げた。

 

「知っているとは思いますが、12ブロックにおいて争いは禁止ですからね。よろしくおねがいしますよ。」

 

わかっている。すれ違いざまにそう返した。

絶壁の中はログハウスが並び、コンクリートや鉄の建物は見えない。柔らかな景色だった。

他の区域とは違い、平和で笑顔が溢れている。血の中で暮らしてきた私からすると、平和ボケしているように思えた。

 

「コアさん、ここすごいですね。みんな楽しそうです。」

 

隣の少年は、夢でも見ているのかのように目を輝かせている。それもそうか。

私達は大通りの真ん中を通り、住居へ向かった。パークが手配した家は小さいが、二人なら丁度いいくらいの一軒家であった。

 

「マンションかと思ったが、まさかこんなのを用意したのか。やるなぁ。」

 

ドアノブに手をかける。かじかんだ手がうまく動かないがなんとか回す。暖気が下から這い上がり、

中に入ると木の香りが漂い、オレンジ色の明かりが目に刺激をする。

 

「これ、温かいですね!」

 

火がつけられた場所の前に座り私に言った。たしか...暖炉といったか?よく木でできているのに燃えないものだ 。

 

「あらかた見たら荷物を整備しろよ。一応ここは暮らすわけじゃないからな。一時的な休憩だからな。」

 

「ここ住みたいですね。」

 

簡単に言ってくれるが、油断すれば命取りになりえるものだ。ブロック庁に申請をし、与えられた任務をこなす。難易度は頭のおかしいものから子供のようなものまでいろいろ。そんな運ゲーはしたくはないものだ。

賑わった部屋は慣れない疲労をためたが、それ以上の癒やしを私達に与えた。

贅沢だがラウンジの通りだ。ずっとここに居たいものだ。この日はすぐに寝てしまった。安心できる場所か...

 

ふと目が覚めた。雪が降る街に呼ばれたように、すぐに目が覚めた。時刻は5時10分程度。普段どおりの朝だが、こんなに心地の良い朝は初めてだ。外には馬車で荷物を運ぶ人が行き来している。

時代を遡ったかのように、車やバイクは走っていない。12ブロックの決まりの一つである。大型機械類は許可がなければ使えない。徹底した決まりだが、こういった決まりがあるからこそ平和が維持される 。

この国にはそういったものはわずかしかない。

ある意味自由な国だろう。

疲れが取れた気がしたのは久しぶりすぎて体が伸びた。洗面台に向かい顔を洗う。鏡に映る私は、体が傷だらけで、顔色だけが生き生きとしている。鏡の私を殴りたくなったがなんとか落ち着け、キッチンへ向かった。

私は軽い飯だけをかばんに入れ、出かける旨の置き手紙を残し家を出た。なんでかって?そりゃあパークに会いに行かなくてはいけないからな。

 

行きに乗ってきたバイクを車庫からだし、旧道路の入り口まで押していった。

約26キロの道のりをバイクで走る。途中、朝ごはんを食べていないことを思いだし、食べた。

旧道路は20年前に新道路という空中道路ができてから使われなくなった。郊外の人々でさえ、使わなかったので表面はひび割れている。ふと郊外を見渡す。街灯で照らされた町はまだ静かなままだ。

だが、その先にやつらがいるのが見えた。青い光。私はそのばから離れるようにまたバイクを動かした。

 

旧道路を降り、下道をゆっくりと進む。少しすると大きな施設が並ぶ建物のあいだから見えてきた。

第6ブロック南部警察駐屯地。

施設は城のような壁に囲まれ、中には塔が3つ立っている。鉄で出来た門を通り、受付に向かった。

 

「ん?どんな要件ですか?」

 

入り口から近づく私に一人の構成員が話しかけてきた。まぁ態度は良くはないか。

 

「パークという奴はいるか。」

 

男は少し驚きおどおどしているように見えた。その後無線機で誰かと通話した後私を面会室へと案内した。

机を挟んで対になるソファ以外にはなにもない質素な部屋は防音仕様になっていた。私はまるで危険組織の会談室じゃないかと思った。

タバコに火をつけ、しばらくしているとパークが入ってきた。

よう、とこちらに挨拶をする。いつもだらしなく着られている服は、流石にしっかりと着ていた。そして気づいたことがある。

 

「お前1級なんだな。」

 

だからあの時の構成員は少し驚いていたのか。警察組織での戦闘員最高クラスの1級。そこからの選抜隊もいるが基本1級が一番となる。まぁ入り口にいる構成員程度のレベルなら呼び捨てできないから呼び捨てした私に驚いたのだろう。

 

「まぁな。そんでお前から来るなんて珍しいな。」

 

「あぁ、まぁそうだな。お前があの家を手に入れたことの感謝とこれからについて話に来た。」

 

「おいまてよ?前者はいいが、後者はやめてくれ。いくらここでも聞かれる。こんど長期休みにはいるからその時にしてくれ。」

 

「また取れたのか?1課も暇だな。一応概要だけは話す。本当は感謝だけ言うつもりだったが、こっちに来るとき12ブロック付近の郊外で青い光が過ぎるのを見た。おそらくスカーの処刑部隊があちこち探し回ってる。軍部の奴らもわざわざ部隊を出す必要はないと感じたらしい。以上だ。」

 

パークは少し考えたあと、「また今度な。」っと言い部屋を出た。私は咥えた古いタバコを灰皿に置き出ていった。

(何かやらかすなあいつ。)

施設を出たあとに思った。どこかの組織を混乱させるようなことをしそうなやつだ。

胸ポケットから新しいタバコを取り出しライターで火をつけた。その煙は焦りをあらわにし、空へ消えていった。

 

「コアさん!なんで何も言わずに出かけたんですか!僕どうすればいいかわからなくて、ほんと凄かったんですよ⁉」

 

「確かにすごいな。」

 

私は唖然としている。これはどうゆうことだ…

 

「そんなこと言ってないでください!」

 

帰ってきた途端このざまだ。トイレットペーパーや書類、食べ物が散乱している。

そして何故か私がソファでラウンジに怒られているわけだ。

 

「はぁ…取り敢えず片付けるぞ。トイレットペーパー丸めてろ。私はほかやっとくから。」

 

どうなったらこうなるんだ?ニンジンがキャベツに刺さっている。それにじゃがいもが包丁もなしに真っ二つに割れているなんて…。一生冷蔵庫は開けさせないようにしないと。

書類も特にやばいやつではなかったが、この散らかり様はなんの書類か検討がつかない。

 

「一つ一つ片付けるとしよう。」

 

ーーーーーーー

10分ほどでなんとかあらかた片付け、一息つくことができた。それになれない作業は体にくる。こんな作業を一生の間でするとはな。人参を抜く。ジャムを拭く。食器を直す…はぁ思い返しただけで頭が痛くなりそうだ。

 

「それでどこに行ってたんですか?」

 

懲りずにパンをくわえて出てきた。拳が出そうになったがなんとか止めた。こっちは苦労したんだが?どんどん出てきそうだからやめよう。

 

「パークのところだ。今度ここに来る約束をした。あと、お前は冷蔵庫。いやキッチン周辺には許可なく入るな。面倒が起こるから。」

 

えーっと返事した瞬間に持っていたボールペンが折れた。うっかり力を入れすぎたようだ。

ラウンジは、ビクッとしてその場を去った。

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何もない日々というのは暇だ。これを12ブロックの一般の奴らは通常、幸せと言うが、スカーの施設でのあのような環境で血に常に触れてきていた私からすると暇すぎる。

パソコンをいじりながら暇をつぶしているが特に面白いことはなく時間だけが遅く過ぎている。

ある時私はこんな記事を見つけ魅入ってしまった。料理の記事。それも人肉を使わない料理だ。私は興味を持ち調べ始めた。

 

「何見てるんですか?」

 

ラウンジが部屋から出てきた。

 

「あぁ。料理だよ。簡単なのにうまそうじゃないか?」

 

するとラウンジは固まり目を開ききった。

 

「え、あのコアさんが...いや夢ですよね。」

 

「なんだ失礼なやつだな。私だってある程度できる。それにうまそうなのを見て何が悪い。」

 

少し混乱しているラウンジは、

 

「い、いや別にいいんですよ。そ、そうだ!僕書類整理しないと!」

 

ラウンジはそう言うと部屋に戻っていった。

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(いや、あれは絶対そうだ。パークさん来るからだろ。それ以外ないし。しかも何あの目!めっちゃキラキラしてるじゃん。仮に違くてもこれは…)

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「なんだあいつは?まぁいい。これなら作れそうだし材料買ってくるか。ついでにあいつも連れていこう。荷物持ちに。」

 

私はパソコンに書いてある材料をメモ帳に書き写すと財布と剣を持ちコートを着た。

コンコンとラウンジの部屋を叩き開ける。

 

「おい!」

 

ヘッドホンを着けたラウンジを呼び出す。

最近は音楽という芸術に興味があるようだ。

芸術は人間に色々な感情を与えるというが、私にはよく分からなかったものだ。作った者や他者の気持ちなど考えるほどエネルギーの無駄はない。

自分のことを考えるだけで精一杯な現実だからな。私に気づいたラウンジは、すぐにヘッドホンを取り片付けた。

 

「買い物だ。行くぞ。」

 

すぐに少年は準備を始め、珍しくいつもよりも早く終わった。家を出て鍵を閉める。冷気が体を蝕みながらも店に 歩いていった。

開いている傘は隠し刃付きの安いやつだ。

色々な武器が売られている中でも最近は暗殺武器や護身武器などが人気で、一時期の激戦時代のように大型の殺傷武器ではない。これはいわゆる冷戦時代であることを物語っていた。組織同士が大きく戦いに出るのではなく、じわじわと足元から削っていっている時代。私もいつ殺されるかわからない身だから、安価なものでも買っていた。まぁ看守に狙われているとなると関係がないが。

 

「何買いに行くんですか?」

 

そういえば何を買うか言っていなかった。

 

「あぁ、さっき見した料理を作ろうと思ってな。

その材料を買いに行きたい。」

 

ほら、っと紙を渡した。

十数種類の食べ物を記した紙。

 

「へっへー...こんなの作るんですね。」

 

そっけない返事をされて少しイラッとしたが気にしないことにした。

家に囲まれた細い道を進み、開けた道に行くとなにやら騒がしい。街の人が右に逃げているように見える。

 

「どうしたんだ?この騒ぎは。」

 

話しかけた若い男は立ち止まって言った。

「ば、化け物が出たんだ!周りの家を壊して暴れてるんだ。お前も逃げろ殺されるぞ!」

慌てた口調でよく聞き取れなかったが、化け物がいるのは確かだった。人々が来る方向には煙があがり、おぞましい鳴き声が聞こえた。行ってみるか。私は流れに逆らって元凶へ向かった。

横をすれ違う人々は絶望しきった顔で逃げている。目は見開き表情はやつれている。

向かっていると、突然大きな鳴き声とともに一気に静まった。何があったんだ?

元凶のもとにつくと、切り刻まれた大きな化け物と一人。その一人は化け物の前で座っている。私は近づき話しかけた。

 

「あんたがやったのか?」

 

その一人は私の声に気づきこちらを向いた。腰には大剣が...おいまて。

 

「よお、コア。迎えに来てくれたのか?」

 

蒼い髪に藍色のコート。青いラインの入った大剣に暗藍色のバック。

 

「よりによってお前かよ。早いな。予定時刻より2時間早いぞ。」

 

「なんだいいじゃねか。被害も広がんなかっただろ?」

 

まぁそうだな。するとラウンジが後ろから走って来た。

 

「探しましたよ!ってあれ。パークさん!来てたんですか?」

 

疲れた顔のまま話し始めた。

これは話が長くなりそうだ。

後ろから大きな足音が聞こえる。自警団が走って来たようだ。先頭の集団は、

規模の割の鎮圧の速さと化け物の大きさに驚いている。

 

「お前たちがこの化け物を倒したのか?」

 

隊長らしき人物が来た。

 

「いや、この男が全部一人でやった。私達は終わったあとに来ただけだ。」

 

余り巻き込まれたくはないな。私はわざと他人のフリをした。

私はラウンジを連れすぐに現場を離れた。

 

「買い物はなしだな。すぐに戻るぞ。」

 

広場と成り果てた通りから細い道に入る時、少し視線を感じた。目を回すとフードをかぶった何者かが双眼鏡で見ていた。目が合うとすぐにやじの奥に消えていった。戦闘は起こらないだろうが心配だ。私なのかラウンジなのか。警戒しないといけなさそうだ。

それにここにいられるのもあと1週間だけ。移住権を手に入れないとまた危険に晒されてしまう。

家に帰りコートを掛け、準備を終わらせたときベルがなった。扉の前には毛皮で出来た帽子を被ったパークがいた。

ラウンジが迎え入れ、ソファに来た。

 

「さっきは凄かったな。何したらあの短時間であのでかいのを倒せるんだ?」

 

コーヒーを飲みながら私はパークを見る。

 

「まぁ適当にやっただけだ。だが狭かったもんだから手こずったな。」

 

そういえば…とラウンジがつぶやく。

 

「ここって自警団以外は武器の使用と見せたりするのは禁止ではなかったでしたっけ?」

 

頭をかきながらパークは

 

「そうだったんだよなぁ。自警団に武器を向けられたよ。まぁ下手に殺すのはあれだし逃げてきたんだ。」

 

おいおい私達が匿っているようではないか。

一旦場を落ち着けて話を始める。

 

「取り敢えず本題に入ろう。前も行ったとおり最近このあたりをスカーが飛び回ってる。」

 

私はあと一週間以内にここの移住権を得るか、危害のないところの家を見つけるかの情報を提示した。実際移住権を得るのは難しいだろう。だが、こいつを生かせるのならやる価値はある。

移住権は12ブロック以外に、1ブロック ・9ブロックに存在する。基本的にブロックの施設に行き、任務を遂行することが条件となっている。その任務は楽であれば極端に楽だが、死により近くなる。つまり簡単ではないのだ。

 

「明日、役所に行って任務を貰いに行く。それ次第だな。」

 

パークがコーヒーを飲みながら資料を見た。

 

「じゃぁ準備するか。なにが来るかわからないし。」

 

武器研ぎや掃除。携行回復薬の残量やバッテリーの確認。装備品を整え準備を終える。何回も繰り返しているとすぐに終わる。それを見越してなのか、パークは肩掛けバッグから瓶を取り出した。

金色にラップされ、すこし装飾がされたもの。

それは8区でしかとれない超高級ワインだった。

「おいおい。お前そんなんどこで手に入れたんだ!。」

昔、いつの日かみんなで飲んでみたいなと笑いあった日がフラッシュバックし、すこし悲しい気持ちになる。でもせっかくなのだから明るくしようとテンションを上げた。

そうして一日が終わる。

明日次第で運命が変わる。

 

 

Iron Steam D

正直なところエゴのでるスカーは珍しく、こんな周期で一人出会うとは思わなかった。それにおとなしそうなやつが脱走する勇気を持っているなんて。

 

とりあえず少年のために買わなくてはいけない。

麻酔は少し遠くに行かないと売っていない。大体のものは専売特許が申請され国が保護する対象となっている。専売特許というものは利益を独占するのにもってこいな仕組みだ。そのせいで駅を2つ乗り継がないといけない。ここまで郵便が来ればいいが、こんな郊外には来るはずがない。需要がないからだ。

 

こんな武器を持ち歩かないと死と隣り合わせのこの郊外は危ないし。金のない者たちが住むところじゃ何が起こるかわからない。私でも短剣を一本持ち歩くだけでもしないと行けないのが面倒くさい。

やろうと思えば私の武器ででかい穴を開けることもできるが、できない。

 

看守はどこにでもいる。

 

下手に使えば怪しまれる。 別に買ったと言えばすむことだが、同化するし。一番は銃器を使うことが難しい点である。普通銃弾を買うだけでも、十発で郊外に家が一つ建てられる程である。そして免許を必要とし管理され、月にとてつもない額を請求されるからめったに持たない。

それに今時の売っている装備であれば銃弾なんて弾きかえされる。だから持つ人は金持ちのやつか、無視するやつしか持っていないんだ。

 

駅に着いたので乗車券を買う。これから行くのは決して安全ではない。なんならさっきまでのほうがマシであろう場所だ。電車に乗る。でかい鉄の塊は唸り声をあげドアを締め動き出す。でかい物体が加速レールに乗った瞬間、とてつもない速さで駅に向かう。体感1秒もないくらいだ。やはり私はまだ慣れない。

到着すると気持ち悪い音楽が流れ扉がひらく。

 

「第6ブロックか」

 

第6ブロックはこの都市部の影であり郊外との境がほぼないに等しい。だが、安全なのは政府が見ているからだ。アイツらほど強力な軍はいない。短時間で的確にターゲットだけを殺し

必要であれば殺傷し、2,3人で10人は相手できるだろう。この世界で恐れられているものの一つでもあった。

私は駅を出てバスに乗る。麻酔屋はここから10分ほど。何も起こらないことを願う。

タバコを取り出し火をつける。

タバコは消耗品だからキセルにしようか考えていた。道のところどころの路地道には子供の死体や、守っていたであろう大人の死体が転がっている。

麻酔屋の近くに着きバスを降りる。

はぁ。目の前から、何やら刀を持って向かってくるやつがいる。やはり影は安全ではないらしい。

 

「よぉねぇさん。こっからは通行止めなんだ。どうしても通りたいなら、金落としてきな。」

 

「どこの事務所かは知らんがどいてくれ。お前らとじゃれている暇はない。」

 

私はそのまま歩き続ける。腰に手がずっとかかっている。いつでも剣を抜ける準備はできている。

見る限りあいつらは素人だな。通行料を払わなかったやつをただ殺してる。素人なのは、その死体を隠したり、ランプの代わりに飾っていないように工夫がない。おそらく、7人程度のあいつらなら私でも相手ができる。

 

キーン

 

話しかけた男は地面に刀の鞘をたたきつける。その衝撃でコンクリートの地面には軽くひびが入った

 

「もう一度言うが、通行料を払うんだな。お前も見ただろ。あのへんに転がっている死体。ああなりたいのか?」

 

「私はそんな幼稚な挑発には乗るタイプではない。」

 

少し大声で言ってやると、一人痩せた男が走ってきた。

私はやつの腕を掴む。そして膝蹴りで骨を折った。そして剣の鞘でそいつを気絶させる。

 

「その程度の筋力じゃすぐに殺されるぞ。」

 

よくこんなので人を殺そうと思った。まぁ一般人なら殺せるか。他の奴らは、刀を突き刺す形で持っている。

串刺しか。

走ってくる。あいつらのスピードなら十分太刀打ちができた。一歩後ろに下がり、剣を取り出す。

力を込めると、鋼鉄の剣は、赤くなり溶け出した。

鞭の形ならこの程度殺せる。鞭は相手の足に絡みつき赤く燃え上がりながら焼き切った。

二人が足を失い倒れ込む。おそらく経験したことない痛みだろう。切り傷程度の痛みからこれだと気絶するだろう

。同じようにほかの敵を相手する。奴らはなすすべなく倒れ込み悲鳴を上げて苦しんでいる。私はポーチから包帯と止血剤。そして水を出し奴らの前に置く。素人ならこれで諦めるはずだ。傷は彫っておいた。

 

「次こんなことを私の前でするなら次は四肢を切り刻むからな。」

 

脅しだけ入れて私は店に向かった。店は小さな路地の裏。5,6階のビルの一階である。

唯一の麻酔専門店だ。私は木と鉄でできた、小洒落た扉を押した。中は思ったよりも綺麗で、麻酔の原料であろう様々な植物が育てられている。

そして一番気になったのは、この部屋はおかしい所だ。ビルの大きさの6倍の広さの部屋と奥にあと二部屋はありそうだ。それに明らかにこの世界の景色ではない。透き通り電気で輝く水が湧き出ている。

それらで植物に水が供給されている。そして植物たちは生き生きと動かない疑似的な太陽に花を咲かせている。都市部の水はほとんど汚れて飲んだり使うことはできないはずだ。

 

「すみません。誰かいますか?」

 

私は声を張り上げて丁寧な口調で言った。すると奥から誰かが出てくる。いや誰かというよりなにかだな。人と言うよりロボットに近い。腕の関節には歯車が露出している。

痛みを感じないように、体の一部を機械化するやつもいるが、ここまで機械化されていると法に引っかかるな。国は大量的な破壊を防ぐためにロボットの製造は禁止している。特許申請店が法に触れることはないだろうから特には言わないでおこう。

 

「麻酔が欲しいのですが、ありますか?」

 

するとそいつは、金属音をたてながら喋りだした。

 

「そこにある植物から好きな組み合わせで葉っぱを三種類取ってください。持ってきたら作ります。

ものによって時間が違うので注意してください。」

 

顔の割には流暢にしゃべる奴だ。

 

「なんかいい組み合わせはないのか?」

 

知識がないため理解がし難い。

できるだけ安価であいつに刺激が少ないものが良いだろうがそんなものあるのだろうか。

 

「すべてはあなたの気持ちですのでお好きに選んだください。特定の目的がないのでしたら、全て効果はおなじです。」

 

「刺激が少なくて痛みを全くあとになって感じないようなものはないのか?」

 

植物を手に取りながら後ろの店主に話した。2、3秒したあとにピピッという電子音がなり、歯車の回る音が聞こえだんだんと大きくなっていく。なにをやっているんだ?見ない間にどこかにいってやがるな。

5分もしないうちにレンジのチンッという鐘のような音の後にやつが上から出てきた。

やつは小さな箱を手に持ちこちらに来た。さっきは机で下半身が見えなかったが、

歯車やら部品やらでキャタピラで動いていた。

 

「こちらがお望みの品です。さきほどおっしゃった『刺激が少なく使用後の痛みがない』ものです。値段は変えられません。」

 

そういうとなにやら紙を差し出した。請求書だろう。

 

「う‥ほんとにこんななのか。」

 

描かれていたのは670000。

六十七万。とは痛手すぎる。

一応あるにはあるがそれだと事務所を運営しきれない。普通の店なら気に入らなければ切り捨て方式だが

政府と契約を結んでいる以上変に攻撃すると軍に殺されるだろう。そして犯罪者としてメインストリートの影に干される。

 

「なぁもうちょいなんとかならんのか?」

 

「痛みや効果時間の変更などで料金も変わります。いかがでしょうか?」

 

私はあの部分を一度神経を切って感覚機能を消してから復活させたが、そのときにはあの人がいた。

自分でなんとかできるわけがない。でもしょうがないのか。

 

「効果はそのままでいい。時間と刺激指数だけ下げてくれ。それで買う。」

 

また上に上がり2分後に下がってきた。こちらになります、と店主は言う。今度は24000。相変わらず高いが独占市場で値段を下げる必要はないか。これでいいと私は店主に言い会計をした。何か言いたそうだったがまぁいい 。私は会計を済ませ店の扉をめがけて歩いた。しかし、最後にこんな言葉をかけられた。

「おまけです。」掠れた小声だったが私には伝わった。彼は初対面なのだが...

 

帰路の終わり。朽ちた電灯が光始めている。下には人の死体。そんな舞台袖を眺めつつ事務所につく。そこは血がついた廃ビル。二階の窓には顔が張り付いている。

階段の前には大きな切り傷のついた死体が2個。

紫のズボンと黒のアーマー。そして肩には、行きで交戦した事務所の戦闘員についていたバッチがついている。

 

「くそ!」

まさかあの短時間でこの事務所だと特定したのか。あの少年は無事なのか。

しかし一番気になったのは一体誰がこの量を殺したのかというところである。あいつではないだろうし...。私は麻酔のことを考えずに階段を駆け上がった。ドアの前には壁に槍ごと突き刺さったリーダーらしき死体。そして気づいた。この傷は...あいつか!壊れた扉の中にはソファに座る1人の男。

 

「おおぅ、やっと帰ってきたか。すこし楽しませてもらったぜ。」

 

やっぱりだ。

 

「パークお前か?アイツら殺したの」

 

そうだと答える。

 

「ラウンジはどうした?」

 

煙草の煙で方向を指す。すると机の後ろの扉から出てきた。顔に切り傷があるがなんとか生きているようだ。

 

「全然無事だ。ちょうど良かったよ。もう少しだけ俺が遅れていれば死んでたな。俺がお前さんに仕事を押しつ...失礼。仕事を共有しようとうと思ってきたらなんか変な奴らが前にいてな、その時階段で怒鳴り声だのドアを壊せだの聞こえたから軽く相手してやったが...アイツらなんなんだ?」

 

全然下心丸見えだが、まあいい。

 

「あいつらは今日行きに私に襲いかかってきた事務所の戦闘員だろう。人数からして規模はでかそうだ。通行料を払えだの言ってきたから郊外のこの辺のブロックの組織か。それに短時間でここを特定したということはそれなりに顔の広い大きな組織だろうな。」

 

いずれにしろ感謝する。私はそういうと…。

 

「なぁパーク。少し手伝ってくれるか。手術をしたい。」

 

あいつは、酒があれば。と了承した。あの人とパークが私の手術を手伝ってくれた。

訳もわかっているしやり方もわかっているはず。

 

「本当にいいのか?あいつはいないが...協力はするがお前次第だぞ。」

 

あいつは真剣だ。いつもはだらけているがやるときはやってくれる。今回は麻酔があるから神経を切る必要はない。私は寝ているラウンジにメスを突き立てる。予想以上に効果があるのかピクリともしない。

メスが冷たい皮膚に入り込んだ。そして赤く鮮やかな血が溢れ出てきた。パークに止血を頼み、私はコードのある腕と肩の付け根にメスを入れていく。心臓がどんどん早くなり、熱い鼓動へとかわっていった。そして見つけた。そこには小さなオレンジ色のチップと青色のチップ。この2つを取り除けばいい。ピンセットを近づける。そしてこれでもかという力で抜いた。

 

「出したぞ。」

 

私は安堵し今までの工程を巻き戻った。全て終わり、私はチップを見ていた。

その時にあることに気づいた。

 

「ん?これは?…もしかして....!お前は。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「大丈夫か?左肩は痛くないか?」

 

静かに瞼を開き意識を取り戻す。左肩を見ると何も描かれていない。どうやら手術は終わったみたいだ。

 

「コアさん終わったんですね。良かったです。」

 

なんとかなっとコアさんは言ってくれた。僕は何も感じていないけど、たぶん相当な痛みだったんだと思う。それをコアさんは耐えている。本当に凄い人だ。コアさんはパークさんとご飯にしようと言ってくれた。僕は立ち上がり、腕を動かす。全く痛くないのに驚いた。覚悟していたけれど……凄い麻酔を買ってきてくれたんだろう。後で感謝しないと。僕は部屋を出てテーブルに向かった。

 

「パーク。最近結構楽しい仕事が入ってくるしラウンジも守ってくれたからな、お前の好きなシャンパンだ。」

 

「おう、ありがとよ。今思い出したんだがそういえばお前は12ブロックには結局行かないのか?」

 

「あそこか?迷ったがやはりこのぐらいの影薄さのほうがバレにくいな。」

 

「12ブロックってどんなところなんですか?」

 

「そうだな。かんたんに行くとブロックごとにルールがあるだろ?」

 

ラウンジはうなずく。

 

「ブロックの中で唯一殺人とか窃盗が許されていないだよ。だから組織の奴らはめったに行かない。だから安全なんだ。」

 

「本当ですか?一度見に行ってみたいですね。」

 

「まぁそうだな。パーク、私が仕事してる間に連れて行ってやれよ。」

 

「まぁいいが、でもよぉ、ーーー」

 

パークと目を合わせる。ラウンジはわからない顔をしている。足音が聞こえる 。防音にしてあるから外には漏れていないはずだが誰が来たんだ?窓とカーテンとの間に黒い物体が見えた。

嫌だがあいつと戦うしかないようだな。この音と一瞬見えた影はあいつらしかいない。

扉の向こうにはあいつらがセットしている。

 

「完全に包囲されたな...ラウンジ、荷物をまとめてくれ。」

 

「俺は首にはなりたくねぇが、しょうがねぇな。」

 

しばらく静寂が周囲の夜とともに包み込む。あいつらは機会を伺っている。軍の執行部隊。夜に行動し、確実にターゲットを殺害する。数が多いのもあるが、あいつらはエリート中のエリート。スカーのトップでも楽には倒せない奴らだ。

 

23時。針が時刻を知らせたとき、扉がひらく。閃光と共に血が散った。パークの槍が二人を貫く。それとともに窓から侵入しようとしてくる。特注ガラスで救われたな。びくともせずあいつらは困惑しているようだ。荷物を持ったラウンジを抱え走り出す。パークは外で暴れまわっているようだ。大剣の輝く軌道とあいつらの得体のしれない武器がぶつかり合い周囲をともし続ける。私は、地下室の扉を開けラウンジを入れるとパークの元へ向かった。

 

「大丈夫か!」

 

現場は血でまみれ、四肢が飛び散り内臓が飛び出た死体ばかりが散らばっている。真ん中には一人、血だらけの男が立っている。

 

「パーク!お前…全員やったのか?」

 

「あぁよ、手応えがねぇな、結構期待してたんだがな、本気でやったのが馬鹿だった。」

 

いくらなんでも早すぎる。6分はたっていないはずなのに…。偽物かと疑ったが、死体のバッチには軍のマーク。それも星が5つのハイトクラスの奴らだった。

最高クラス『リヴァイアサン』クラスと続いての5番手の部隊だった。それが13人はいる。そいつらを相手してほぼ無傷とはな、恐ろしい限りだ。

 

「ここは早めに離れたほうが良さそうだな。こんだけの損害が出た以上、軍の奴らは黙ってないだろうな...」

 

「お前はどうなるんだ?警察は実質軍の傘下組織だろ?軍の1部隊を全滅させた以上、軍どころか、政府に狙われるぞ。」

 

あいつは、「今までなんのために戦って来たと思ってんだ。」と少しニヤついていた。血溜まりに青いライトが照らし始める。深夜に入ったという合図だ。この時間帯になると犯罪が増えるため警鞭のうろッチには軍のマーク。それも星が5つのハイトクラスの奴らだった。

最高クラス『リヴァイアサン』クラスと続いての5番手の部隊だった。それが13人はいる。そいつらを相手してほぼ無傷とはな、恐ろしい限りだ。

 

「ここは早めに離れたほうが良さそうだな。こんだけの損害が出た以上、軍の奴らは黙ってないだろうな...」

 

「お前はどうなるんだ?警察は実質軍の傘下組織だろ?軍の1部隊を全滅させた以上、軍どころか、政府に狙われるぞ。」

 

あいつは、「今までなんのために戦って来たと思ってんだ。」と少しニヤついていた。血溜まりに青いライトが照らし始める。深夜に入ったという合図だ。この時間帯になると犯罪が増えるため警察が動き始める。この惨劇場を見られたら、私もだがラウンジの身も危ない。手術もしたてだからあと3日は放置しないと治らないはず…

 

「とりあえず考えた中で一番安全な12ブロックに行って、しばらく身を潜めたほうが良さそうだな。俺は支部にいちど戻る。帰ってすぐに一つ家を手配しておくから向かってくれ。しばらくしたら連絡すっからそれまで待ってくれ。」

 

パークはそのまま道を進んでいった。こうしちゃいられない。

 

「ラウンジ、12区に行く。少し待ってろ。」

 

私は、事務所ビルのガレージからバイクを持ち出す。一般的な大型バイク。この時代にタイヤは古いが、昔の道路がまだ残っている。そこを使えば歩きで16時間の道を5時間で行くことはできる。

古いため少しガタつくが、十分に息を吹き返していた。

準備をすすめ、荷物をバイクに乗せたとき、中央の道の奥から大勢の人が来る。警察なのか?

だがその考えは覆された。よく見ると左肩が、うす青く光っている。そして、様々な表情や形の仮面をしている。

そう、あの気配こそ軍と互角に戦える戦争兵器であり戦闘兵器。

 

「スカー...なのか」

 

まずいことはわかっている。だがここに来たということは、軍からの指示なのか、それともバレたのか。考える余裕なんてない。

 

「行くぞ!乗れ!」

 

ラウンジは、走って向かってきた。私は、ラウンジを前に、座らせ、抱える形でハンドルを握り回す。アイツラとは逆方向に逃げた。だが、もし存在が気付かれていたのなら、とっくに撃ち殺されていそうだ。

 

.............

 

「覚えていますか?」

「えぇ覚えています。」

「鮮明に?」

「鮮明に。戦場で暴れまわったやつの事。」

「あと一人は?知っていますか?」

「見たことはない。だが兄弟だ。」

「私もそう思います。」

 

Iron Steam C

扉が叩かれ、私は扉を引いた。目の前には3人の男。蜂の巣柄のロングコートに黒いシャツ。白い模様の入った刀を持っている。

組織の一人だ。あとの二人はおそらく警備用のスカーだろう。

 

「いらっしゃいませ。どのご用件ですか?お金持ちの方がこんなところにまでどうも。」

 

慣れない敬語を使う。片言になるがまぁいい。

 

「この周辺に右肩にUIー6846というマークのついた人間を見ませんでしたか?」

 

丁寧な口調に体が間に合っていない。身体強化をしたのだろうか。ゴツゴツである。

とはいえ、外ではスカーを人間と呼ぶのは初めて知るな。

 

「いえ?見ませんでしたね。私は今日近くの学校で警備をしていましたので。」

 

彼は少し私を睨み付けたが、すぐに表情を緩め帰っていった。すぐに扉を閉め、防音装置を起動した。

心臓がどうにかするかと思った。ワンちゃんバレるかもわからないから怖い。

私はコーヒーを一口淹れたあと、空間からラウンジを引っ張り出した。彼はこの状況下にも関わらず平常心でいる。怯えてると思ったが見当違いのようだ。よろけた服からはみ出る方に眼をやるとUIの文字があった。組織の奴も言っていたが、お前って情報系なんだな。

 

スカーには色々いる。

戦闘系・情報系・探索系・警備系など

それぞれUのあとにAttack・Information・Seach・Guardというアルファベットの頭文字が描かれる。それで役割を基本的に区別をする。

私は戦闘系だから、UにAが最初の認識コードにつく。あいつは情報系ならこちらが有利になるかもな。

それに情報系のスカーの持つ武器は珍しいから興味もある。

 

「アイツらは遠くに行ったな。そうだな、お前の武器出してみろ。」

 

「え?どうして?戦うんですか?」

 

「ん?お前スカーだろ?武器ぐらい出せるだろ。それに情報系の武器を見てみたい。」

 

渋々少年は了解すると、手を前に掲げ手からロウソク程度の光を放ち始める。そこまでではないが、その光が少しずつ形取られ、そして微弱な光は消えていく。すると手に金属質の棒に先端はU字で角ばっているものを発現させた。棍棒かと思う。もしくは切断機器の一種か。

 

「僕の武器はこれです。精神力を使って自由に高温の粒子光線を出すことができます。」

 

「魔法のステッキかなにかか?」

 

魔法?と知らなさそうなのでやっぱいいと云う。ビーム兵器といえば、銃型や大砲型、または剣型が思い浮かぶ。雑誌にもその程度しか載っていない。本当に興味深い武器が出てきた。試しに撃たせてみよう。

私は灰皿に使った煙草の着火部分をこすりつけると

 

「そうだな。じゃぁ私のタバコに火をつけてくれるか?」

 

タバコが無くなったので新しいのをつけてもらうことにした。ただ外れると困るがな。

私はタバコを口にくわえ少し前に出す。いざというときのために耐熱クリームを塗ったため安心はできる。

少年は手が震えている。そりゃこんな小さな的に10メートルほど離れたところから撃つとなると流石に辛いであろう。少しして彼は眼を見開き、杖の先端から光を照射した。見事にタバコの先端に火がついたが、熱い。顔の前を通り過ぎた高熱の粒子は周りも熱くする。射線上を辿ると、壁が少し溶けていた。耐熱塗布をつい3日前に行ったはずだが...相当な熱が加えられている。

 

合格。私は満足に言うと少年は疲れを表しその場で座り込んだ。まぁ無理はない。

今気づいたが、腰になにか杖をつけている。杖と言っても傘の柄のような杖である。

 

「その腰のはただの杖か?そうは思えないが。」

 

少年はこちらをはっと見ると立ち上がり、杖を掴んだ。

 

「まぁ固有武器は常に出すわけにはいきませんからね、バレますし。」

 

持ち手と思われるところから銀色に輝く隠し刃がでてくる。まだ血に汚れていない純粋な刃だ。

 

「そういえばお前、情報系統だったんだろ?ちょっと見てくれよ。」

 

確定したわけではないが信用はできた。パソコンに案内し、あるページを見せる。

そこに移しておいたのは奴らの位置。さっき握手をさらっと求めたときに

やつのロングコートの下部につけておいた。高性能GPS。3日前に1時間以上並んで買った新品だ。

 

「そいつのデータをこっちに送ることはできるか?私にはさっぱりだ。」

 

彼は少し考えパソコンを弄くりだす。2,3分ほどしたあと

 

「腕時計貸してもらえますか?」

 

用意ができたらしい。渡すとすぐに作業を始め、少ししたとき完了した。さすがだな。

色々改造も施されさっきよりもスタイリッシュになっている。

 

「リアルタイムで送るには少し改造が必要でしたので少しだけいじりました。あとついでですがコンパクトにしたんですが…」

 

「ふ、すごいじゃないか。完璧だ。ここまでとは思ってなかったよ。」

 

なかなかに凄い子が来たものだ。こいつは保護する意味が結構あるな。これでこの区の看守の一部は居場所がわかるから行動がしやすい。

あとは…

 

「じゃぁ手術道具買いに行くから待っててくれ。くれぐれもあまりものに触るなよ、警報がなったら即終わりだからな。」

 

私はポーチと剣を持つと一人残して買い物に出た。

Iron Steam B

広い通路に導かれて体育館へ進むと、待っていたのは肉の塊であった。

SPの部下の一人が口を押えて嘔吐する。そのグロテスクな肉塊は精神的にダメージを与えているようだ。私は血の生臭い道を進む。近くで見たら、それはホルンのような化け物であった。どくどくと鼓動させている。まるで私の鼓動と合わせるかのように。いや、今回は楽しめそうだ。私は部下に生徒等の避難をさせるように言うと化け物を見た。うねうねと伸びる触腕と表面を裂き出てきた目。いかにもおぞましい怪物であるが、このへんでは人が怪物になるのが多いらしい。何個かこの規模ではないが担当したことがあった。原理と原因は知らないが。

 

私は深呼吸をしたあとロングコートの袖をまくった。眼を閉じ右手に意識を集中させる。

これが戦闘兵器の特徴である。個体にもよるが、それぞれの個性的な武器が存在する。眼を開き重い右手を正面に向ける。みるみると腕が黒化していき鉄のような物質の大型の銃が体に同化した。

原理はわからないが、精神を利用して弾丸を生成する。そんな命綱を体に抱えた。どんな構造なのかは誰もわからない。だが、弾だけは意識と同じになる。ホルンの中央に向けた。もう一度深呼吸をし、意識を集中させる。すべての眼がこちらを見ている。そして触腕が上に上がった時、化け物に向けて放った。ついさっきまで生徒だったんだろうにな。楽器ということは音楽関係だったのだろう。

 

’’’バン’’’

 

手の先から暖色の火花が散る。そして空気と同化する。凄い反動と共に発射された金属質の物質は、ホルンめがけて、一呼吸もしないうちに大きな穴を開けた。音は壁に反響し本体に共鳴する。

ガチャンと腕が動きサイドの棒から蒸気が吹き出る。そしてオレンジ色に輝いている。穴が空いたホルンは、もう低い重低音ではなく、苦しみに溺れた人間の声へと変化している。

崩れ落ちるホルンにもう一発の弾丸を撃ち込む。右手は高温になり蒸気が吹き出した。

 

壁には血と体液が飛び散り、肉片は着弾と同時に引き裂かれ、ひき肉よりもひどい状態になっていた。剣を取り出して突き刺し、動かないのを確認した。処理は終わり精神的な疲れが生じる。

連続して撃ったせいで右手は少し赤くなっていた。袖を元に戻すとドタバタと警察やらSPやらが来る。

私は横のドアから抜け軽く血を落とした後、引き続き警備を続けた。

その後には何もなく文化祭は終了を迎え、報酬をもらったあとすぐに帰えることにした。

警察や掃除屋達が作業をしている。それを横目に見ながら門を出た。顔は引きつった笑顔である。久々に戦ったものだから楽しかった。あいつにはいっぱい奢らないとな。

 

私は酒を店で買ったあと、事務所に戻った。

しかし、問題は起こるものだった。事務所の階段に、誰か座っている。

パーカーを着た少年だった。私から見たら小さい。少年はこちらを認識すると、立ち上がる。

大きな荷物を抱えている。おいおい冗談だろ。

 

「あの、あなたがレイ=コアさんですか?僕ラウンジといいます。ハル=ラウンジ。」

 

あぁ最悪だ。まさかとは思ったが……私は彼を無視して階段に向かう。

しかし彼はずっとついていくばかりだった。もうイライラしてくる。少し試してみるか。

 

「おい、お前人殺したことあるか?」

 

この世界では当たり前である。子供でも十分に殺せる。だが、まだ勇気がないだけだ。

 

「いえ、僕は訓練でしかやっていません。それがなにか…」

 

「お前もう一回言ってみろ。」

 

こいつ訓練とでも言ったか?相当嫌な予感がしてきた。

 

「え、あ。まだ殺していませんけど…」

 

隠した。やはりか。もうしょうがないな。

 

「入れ。そこで話す。」

 

万が一聞かれたら私の身も危ない。私はなんとか隠しているが、この未熟なガキにはまだわかっていないはずだ。部屋に入りドアに鍵をつけ、防音システムを作動させた。漏れるのはまずいことだから。

ソファに座らせ、私はコーヒーを淹れ席にすわる。向こうは何やら不安そうだ。

 

「お前、スカーだろ。」

 

私の一言に、彼は過剰に反応した。やはりか。スカーとは我々戦闘兵器を指す。

彼はうなずく。

 

「私がスカーということも把握してたか?」

 

これは違うようだ。万が一ばれていたとするなら、ほかの場所に身を移さなくちゃいけなくなる。

 

「僕は逃げ出しました。あの殺人工場の施設から。僕は自由にいきたいんです!」

 

そんなん言われなくてもわかっている。だいたい脱走するやつはこういった気持ちを持つものが多いから。

だが、バレてしまっては奴ら、看守と呼ばれる監視人におそらく殺されるだろう。そしてその可能性は今上がっているわけだ。それも現実となっている。こいつの脱走がバレたらしい。外には奴らが歩いていた。顔は誰も知らないだろうが、左肩にあるコードを読み取られたらまずい。スカーには固有のIDとそのチップが埋め込まれている。私は抜き取ったが、少年はまだ未摘出な故、隠さなくては。

 

「お前はしばらくここからでるな。私の身が危うくなる。左肩のやつを消すのに3日の時間がかかるな。そこまでここいいろ。」

 

明日に左肩の手術をする。そしてその治癒に2日だ。単純な説明をした。

 

「レイさんは大丈夫なんですか?」

 

「すぐに切り取った。」

 

脱走したあとバレないように左肩を手術した。あのときの痛みは気が狂いそうだったのを覚えている。

だが、こんな少年には耐え難いはずだ。麻酔か何かを買ってこよう。

いや、そいつの処遇はあとに回したほうがいいな。階段から足音が聞こえる。奴らが来たらしい。

本棚にある隠しスペースに彼をいれ、出迎えた。

 

 

embii

 

 

Iron Steam A

私は戦うために生まれて、そして軽く死んでいく運命。すべての仲間たちは、痛みに疑問を持たずにただただ、舞台に立った人形のように殺し合いという台本を広げる。

私は愚かだ。この戦争と殺し合いが当たり前の世界で戦うために生まれてきたやつが、エゴを持つことなど許されるはずがないのに。

 

 

逃げ出した。私は自由にいきたい。

 

 

 

今日も変わらずこの部屋は圧迫感がある。

私はコーヒーを淹れ背もたれの高い椅子に座る。

私は戦闘用の兵器であり、普通はこんな生活をしない。私の構える事務所はこの世界ではありふれた戦闘と探索専門である。

組織を逃げ出した私は、この世界で生きるために

偽造や手術を重ねたり、培った戦闘能力を活かしこの事務所を立てたりした。

仕事は今のところ入ってきているが

そこまであるわけではない。そりゃ、外を見ればわかる。閑散とし、所々に血がはねて固まっている。そんな街にあるところにまで仕事を持ってくるか。

ドアの前にある階段からコツコツと靴の音がする。客が来たのか。私はタバコの火をもみ消すとその場でたった。

入ってきたのは藍色のロングコートに身を任せた制服が爛れた警察官だった。

 

「なんだお前か。今日も職務怠慢か?」

 

相変わらずだな。と奴は笑顔で答える。奴は’パークというくそ警察官である。だらしないが、戦闘はピカイチだ。が、態度は気に入らないやつである。

そんなやつのために消したタバコがもったいなくなり舌打ちをしたのち、もう一つに火をつける。

 

「いや?今日は少しばかりちげぇでな。」

 

いつもの探しものの仕事ではないらしい。

 

「今回は楽しめるのか?」

 

タバコをふかす私は間抜けそうに質問した。

奴は応接用のソファに座りポケットから何やら紙を出した。きれいに折りたたまれた紙は契約書のようであった。この世界では契約書は必須だ。

見てみると、依頼主は近くにある学校だった。

また仕事を押し付けるのか。ため息をつく私に、奴は「俺は悪いやつは殺しはするが付添はしねぇよ。」

とふざけたことを言っている。契約書を見ていると私は結構乗り気でいた。報酬が結構積まれているからだ。この世で金は全てであり権力である。

契約書を破れるくらいにまでみたあと、私は同意しサインをした。時間は明日。目的はこんな世界で唯一平和な文化祭の警備である。主に金持ちの子供だが。

 

「あとはよろしくよ、向こうには話はつけてあるからよ。」

 

私に拒否権はなかったようだが別に今回は気にしない。明日の仕事は少しばかりらくできそうだなと一人で安堵した。

次の日、私はコーヒーとサンドウィッチを食べたあと、ロングコートを羽織り、ポーチを持ち事務所を出た。硬い灰色の地面に革の靴が鳴り響く。まだ電灯が点滅し、浮浪者は路上で寝ている。朝早いため冷たい空気と血の臭いが少し感じられる。メインストリートを30分ほど歩くと学校に着いた。正門を探し、向かっていると男三人が出迎えた。サングラスにスーツのゴリゴリ。他にもいるらしい。

 

「おはようございます。あなたがコアさんですね。今回の警備を担当するコーリア家のSP、カートンです。よろしくお願いします。」

 

コーリア家がいるとは驚いた。この地域で有名ないわゆる金持ちの家系である。さすがにお嬢様には専用がいるらしい。

 

「レイ=コアだ。学校側に雇われたから勝手にやらせてくれ。よろしく。」

 

なるべくぱぱっと終わらせるのが私のモットーだ。めんどくさいことを続けるのは体力がもったいない。SPが私に「ついてきてください。」といわれ部屋に案内されると、さっきのボンボン家系が支援をしたのか、外観の都市っぽい金属の硬さとは違いとても柔らかく上品できれいである。

 

いつも使う小さな黒い剣と証明書を手に持ち校長のところへ向かう。(さっさと挨拶を済ませよう。)

豪華な扉にノックをした後返事がしたので躊躇いなく入る。

正面に座るメガネをかけたボンボンの犬がこちらを見てお辞儀をしている。

 

「いやいやこんな朝早くからありがとうございます。この学校の校長のファリム・ヤトと言います。今回はどうぞよろしくお願いします。」

 

私はよろしくとだけ返事をする。

そして家にあったメロンを渡すとごきげんそうに笑った。ちょろい。

すると後ろから何やら騒ぎ声が聞こえる。

登校の時間になったらしい。私は渡された警備ポイントの記された紙を見るために待機室に向かった。

しかし面倒は起こるものだった。

 

「あなたが私の護衛?」

 

突然正面に少女が現れ私に話しかけた。

私はそんなことをするのか?警備とは聞いていたが生徒の付添とは聞いていない。

 

「どうしたお嬢様。私はただの警備だぞ。」

 

くそ。めんどくさいことになった。気風からして例のコーリア家の娘だろうか。上品っぽいが礼儀がなっていないな。するとすぐに後ろからぞろぞろとさっきのSPが来た。私は逃げるように待機部屋に入った。

紙には目立たないようにすること、朝と帰りの校門警備以外は自由に回っていいこと。最後にはSPと協力することとたくさん書いてあった。私は部屋を後にし、この後の警備につくことにした。

 

午前8時半。私は校門の前で突っ立っている。

ぞろぞろと保護者やらが入ってくる。

9時半。ある程度人並みは収まり、私は校内の警備に出た。平和な祭りである。飲み物屋、焼きそば、パン。そんな店が多く並んでいた。期待していたのとは違って残念である。殺し合い人肉BBQパーティーとか目玉早食い大会屋とか。そっちのほうが面白い。実際ここではないが、17ブロックではこのようなことが行われていたのを知っている。ひたすら眺めるだけだが脱走した甲斐があった。普通に暮らせているのだから。

10時。なにやら体育館の方で騒ぎがした。すれ違うものは皆青ざめていて目は混乱一色になっていた。

やはり今回の仕事もかんたんには行かないようだ。私は騒ぎに駆け付けた例のSPの部下とともに現場に向かった。伝わってきた大きな振動は、私に興奮と期待を与えた。

 

made by MB

 

Memory of Your Voice Ⅻ

【第十四節:逢う】

一日目の朝だ。この日からもう時間はすすんでいる。身支度を済ませ、僕はダイニングへ降りた。

 

「おはよう、ファイ…悠李君。よく眠れたかな。」

 

アヤさんがご飯の支度をしている。別にファイルでもいい気がしてきた。

 

「おはようございます。別にファイルでも大丈夫ですよ。こっちではその名前のほうがしっくりきますし。」

 

アヤさんも元気そうで何よりだった。ひと段落して気持ちも落ち着いているのかな。


「エフさんはどこへ?」

 

エフさんのコートがないため、どこかへ行っているはず。

 

「エフさんなら、コンセント君たちともう本を探しに行ってるよ。」

 

「本当ですか!早くいかないと。」

 

素早くご飯をたべ、外への準備を済ませてアヤさんと外に出た。
エフさんは中央のカウンターにいるらしい。情報が集まっているというカウンターでおおよその場所を掴めるという。実際うまくいくのかわからないらしい。なにせ初めて試すというのだから、僕は少し不安になってきた。


アヤさんによると、目的の本に近づくと本人にしかわからない声が聞こえ、もっと近づけばより大きく鮮明になっていくらしい。
いまだに解明されていないということは、今までに成功し、戻っていった人はいないということだろう。
考えているうちに怖くなっていたが、希望をつかんだその手はずっと握られたままだった。


ずっと本棚の間を彷徨う。耳を澄まして、場所を変えて。途方もないが、これが一番正確で速いと思う。

エフさんやコンセント君たちの協力で、移動などは素早く出来ている。

本棚をたまにみて、時代などを把握しつつ、僕の住んでいた年代に近づけていくらしい。

「なかなか見つからないな。たぶんここの辺りだと思うんだけど。アヤ、そっちどうなってる?」

 

「えっと、地揺れ?大きな地揺れがあった年みたい。ん~2011年かな?」

 

それを聞いて僕は、ここにきた年に近づいていることに気づいた。

 

「11年ならもう少し前だと思います。多分あと5.6年前だと思います。」

 

僕たちは少しずつ数冊ごとに確認しながら戻った。

気づけば夕方。僕の体は疲れていた。

 

「そろそろ夜になるわ。食事人が出てくるし、もう戻らないと。コンセントちゃん、ここに目印を…悠李君?」

 

僕はみんなが歩いている中止まった。

なぜなら聞こえたから。家族の声がかすかに耳に入ったから。

 

「ファイルどうした、っておい!」

「まって。もしかしたら…。」

僕はみんなとは違う方向へとあるき出す。
聞こえた声を辿って右へ左へと細い道を歩いていく。
きれいに並べられた本の中で聞こえた今までの会話。幼い誰かの声と知っている二人の声が聞こえる。
そして、無意識に止まっていた。
 
正面にある本棚には、夏恋・祐二の文字の書かれた本が一冊。
その見覚えのある文字を眺めて思う。
母と父の名前だった。やっと見つけたんだ。
 
周りにはエフさんもアヤさんも誰もいない。ひとりでに歩いて行ってしまったことに申し訳なさを感じながらも、僕はその本を手に取った。
 
分厚い本は、父と母の一生を文字として起こされている。
生まれから出来事について事細かに書かれていた。
最後の方のページ。僕は一枚一枚めくっていき、そのページへとたどり着いた。そこに書き記された文章を読み進める。内容はこうだった。
 
父と母は、どこかの山でとても大きな土砂崩れに巻き込まれて死んでいた。母の本には死にかけた状態で僕と誰かの名前を必死に呼んでいたということ。
 
僕は、なんとかこらえていた涙を流した。この鳴き声は図書館の遠くまで響き渡った。
 
誰かの名前、僕はそこに変な詰まりを覚えた。
見覚えのある名前だった。僕は涙を流しながら一枚一枚ページを巻き戻っていく。そしてめくったページには、「悠李の次の子だね。」という会話があった。そうだ。
僕には妹がいた。すると向こうの世界の記憶が蘇ってくる。僕は目的を果たせたんだ。
 
すると後ろから足音が聞こえてくる。
 
「悠李、やっと見つけたんだね。大丈夫だ。」
 
僕が涙を拭く。すると、本から光がにじみ出る。
 
『悠李。すまない。茶良とともに頑張ってな。』
『ずっと見守ってるよ。だから一生懸命頑張ってね。強い子だよ。
 
その光は、そう言い残して消えていった。
 
「父さん、母さん…今までありがとう。」
 
そっと本を閉じる。そして本を戻した。
 
そのあと、エフさんと家まで帰ると、アヤさんが泣きながら抱きしめてくれた。僕も泣きそうになった。嬉しさと悲しさが目の淵までこみ上げてきた。僕はぐっと溢れそうな涙をせき止めた。強く生きると決めたから。
 
体が、徐々に薄くなり光り始める。
アヤさんは抱きしめていた手をそっと放しこちらを見た。
 
「悠李くん。これでここからは消えちゃうけど、向こうでも頑張ってね。」
アヤさんは優しく声をかけてくれた。
 
「ファイル!もう行っちゃうのぉ。悲しいけど良かった!」
上から来たフライくんは元気に声をかけてくれた。
 
「ここでのことはありがとう。自分を見失うなよ。」
 
コンさんは、今まで見せなかった笑顔を少し見せて声をかけてくれた。
 
「ファイル。がんばれ。応援してる」
「私も応援してるよ!」
コンセントくんたちも励ましてくれた。
 
「それじゃあ。悠李。お別れだな。手伝ってくれたりとかとても感謝してる。君に幸運がありますように。」
エフさんは、かっこよく言ってくれた。
 
体が強く光りだす。もうここにはいれない。感謝だけでも
 
「みなさん。僕のためにありがとうございました。本当に感謝しかありません。」
 
今にも崩れそうな表情をなんとか笑顔にして僕は続けて言った。
 
「強く生きます。ありがとうございました!」
 
そして光が優しく体を包む。僕は目をつむり、深呼吸をした。
光の中でここでの記憶がフラッシュバックされる。
僕はぎゅっと握った手を胸に当てて開いた。
 
体がすっと軽くなり、風が僕の体を撫でた。
まぶた越しに映った光には二人の人影が見えた。
 
徐々に意識が薄れていく中で、僕は思った。
 
「ありがとう。」

【第十四節:逢う】

一日目の朝だ。この日からもう時間はすすんでいる。身支度を済ませ、僕はダイニングへ降りた。

 

「おはよう、ファイ…悠李君。よく眠れたかな。」

 

アヤさんがご飯の支度をしている。別にファイルでもいい気がしてきた。

 

「おはようございます。別にファイルでも大丈夫ですよ。こっちではその名前のほうがしっくりきますし。」

 

アヤさんも元気そうで何よりだった。ひと段落して気持ちも落ち着いているのかな。


「エフさんはどこへ?」

 

エフさんのコートがないため、どこかへ行っているはず。

 

「エフさんなら、コンセント君たちともう本を探しに行ってるよ。」

 

「本当ですか!早くいかないと。」

 

素早くご飯をたべ、外への準備を済ませてアヤさんと外に出た。
エフさんは中央のカウンターにいるらしい。情報が集まっているというカウンターでおおよその場所を掴めるという。実際うまくいくのかわからないらしい。なにせ初めて試すというのだから、僕は少し不安になってきた。


アヤさんによると、目的の本に近づくと本人にしかわからない声が聞こえ、もっと近づけばより大きく鮮明になっていくらしい。
いまだに解明されていないということは、今までに成功し、戻っていった人はいないということだろう。
考えているうちに怖くなっていたが、希望をつかんだその手はずっと握られたままだった。


ずっと本棚の間を彷徨う。耳を澄まして、場所を変えて。途方もないが、これが一番正確で速いと思う。

エフさんやコンセント君たちの協力で、移動などは素早く出来ている。

本棚をたまにみて、時代などを把握しつつ、僕の住んでいた年代に近づけていくらしい。

「なかなか見つからないな。たぶんここの辺りだと思うんだけど。アヤ、そっちどうなってる?」

 

「えっと、地揺れ?大きな地揺れがあった年みたい。ん~2011年かな?」

 

それを聞いて僕は、ここにきた年に近づいていることに気づいた。

 

「11年ならもう少し前だと思います。多分あと5.6年前だと思います。」

 

僕たちは少しずつ数冊ごとに確認しながら戻った。

気づけば夕方。僕の体は疲れていた。

 

「そろそろ夜になるわ。食事人が出てくるし、もう戻らないと。コンセントちゃん、ここに目印を…悠李君?」

 

僕はみんなが歩いている中止まった。

なぜなら聞こえたから。家族の声がかすかに耳に入ったから。

 

「ファイルどうした、っておい!」

「まって。もしかしたら…。」

僕はみんなとは違う方向へとあるき出す。
聞こえた声を辿って右へ左へと細い道を歩いていく。
きれいに並べられた本の中で聞こえた今までの会話。幼い誰かの声と知っている二人の声が聞こえる。
そして、無意識に止まっていた。
 
正面にある本棚には、夏恋・祐二の文字の書かれた本が一冊。
その見覚えのある文字を眺めて思う。
母と父の名前だった。やっと見つけたんだ。
 
周りにはエフさんもアヤさんも誰もいない。ひとりでに歩いて行ってしまったことに申し訳なさを感じながらも、僕はその本を手に取った。
 
分厚い本は、父と母の一生を文字として起こされている。
生まれから出来事について事細かに書かれていた。
最後の方のページ。僕は一枚一枚めくっていき、そのページへとたどり着いた。そこに書き記された文章を読み進める。内容はこうだった。
 
父と母は、どこかの山でとても大きな土砂崩れに巻き込まれて死んでいた。母の本には死にかけた状態で僕と誰かの名前を必死に呼んでいたということ。
 
僕は、なんとかこらえていた涙を流した。この鳴き声は図書館の遠くまで響き渡った。
 
誰かの名前、僕はそこに変な詰まりを覚えた。
見覚えのある名前だった。僕は涙を流しながら一枚一枚ページを巻き戻っていく。そしてめくったページには、「悠李の次の子だね。」という会話があった。そうだ。
僕には妹がいた。すると向こうの世界の記憶が蘇ってくる。僕は目的を果たせたんだ。
 
すると後ろから足音が聞こえてくる。
 
「悠李、やっと見つけたんだね。大丈夫だ。」
 
僕が涙を拭く。すると、本から光がにじみ出る。
 
『悠李。すまない。茶良とともに頑張ってな。』
『ずっと見守ってるよ。だから一生懸命頑張ってね。強い子だよ。
 
その光は、そう言い残して消えていった。
 
「父さん、母さん…今までありがとう。」
 
そっと本を閉じる。そして本を戻した。
 
そのあと、エフさんと家まで帰ると、アヤさんが泣きながら抱きしめてくれた。僕も泣きそうになった。嬉しさと悲しさが目の淵までこみ上げてきた。僕はぐっと溢れそうな涙をせき止めた。強く生きると決めたから。
 
体が、徐々に薄くなり光り始める。
アヤさんは抱きしめていた手をそっと放しこちらを見た。
 
「悠李くん。これでここからは消えちゃうけど、向こうでも頑張ってね。」
アヤさんは優しく声をかけてくれた。
 
「ファイル!もう行っちゃうのぉ。悲しいけど良かった!」
上から来たフライくんは元気に声をかけてくれた。
 
「ここでのことはありがとう。自分を見失うなよ。」
 
コンさんは、今まで見せなかった笑顔を少し見せて声をかけてくれた。
 
「ファイル。がんばれ。応援してる」
「私も応援してるよ!」
コンセントくんたちも励ましてくれた。
 
「それじゃあ。悠李。お別れだな。手伝ってくれたりとかとても感謝してる。君に幸運がありますように。」
エフさんは、かっこよく言ってくれた。
 
体が強く光りだす。もうここにはいれない。感謝だけでも
 
「みなさん。僕のためにありがとうございました。本当に感謝しかありません。」
 
今にも崩れそうな表情をなんとか笑顔にして僕は続けて言った。
 
「強く生きます。ありがとうございました!」
 
そして光が優しく体を包む。僕は目をつむり、深呼吸をした。
光の中でここでの記憶がフラッシュバックされる。
僕はぎゅっと握った手を胸に当てて開いた。
 
体がすっと軽くなり、風が僕の体を撫でた。
まぶた越しに映った光には二人の人影が見えた。
 
徐々に意識が薄れていく中で、僕は思った。
 
「ありがとう。」