【第十四節:逢う】

一日目の朝だ。この日からもう時間はすすんでいる。身支度を済ませ、僕はダイニングへ降りた。

 

「おはよう、ファイ…悠李君。よく眠れたかな。」

 

アヤさんがご飯の支度をしている。別にファイルでもいい気がしてきた。

 

「おはようございます。別にファイルでも大丈夫ですよ。こっちではその名前のほうがしっくりきますし。」

 

アヤさんも元気そうで何よりだった。ひと段落して気持ちも落ち着いているのかな。


「エフさんはどこへ?」

 

エフさんのコートがないため、どこかへ行っているはず。

 

「エフさんなら、コンセント君たちともう本を探しに行ってるよ。」

 

「本当ですか!早くいかないと。」

 

素早くご飯をたべ、外への準備を済ませてアヤさんと外に出た。
エフさんは中央のカウンターにいるらしい。情報が集まっているというカウンターでおおよその場所を掴めるという。実際うまくいくのかわからないらしい。なにせ初めて試すというのだから、僕は少し不安になってきた。


アヤさんによると、目的の本に近づくと本人にしかわからない声が聞こえ、もっと近づけばより大きく鮮明になっていくらしい。
いまだに解明されていないということは、今までに成功し、戻っていった人はいないということだろう。
考えているうちに怖くなっていたが、希望をつかんだその手はずっと握られたままだった。


ずっと本棚の間を彷徨う。耳を澄まして、場所を変えて。途方もないが、これが一番正確で速いと思う。

エフさんやコンセント君たちの協力で、移動などは素早く出来ている。

本棚をたまにみて、時代などを把握しつつ、僕の住んでいた年代に近づけていくらしい。

「なかなか見つからないな。たぶんここの辺りだと思うんだけど。アヤ、そっちどうなってる?」

 

「えっと、地揺れ?大きな地揺れがあった年みたい。ん~2011年かな?」

 

それを聞いて僕は、ここにきた年に近づいていることに気づいた。

 

「11年ならもう少し前だと思います。多分あと5.6年前だと思います。」

 

僕たちは少しずつ数冊ごとに確認しながら戻った。

気づけば夕方。僕の体は疲れていた。

 

「そろそろ夜になるわ。食事人が出てくるし、もう戻らないと。コンセントちゃん、ここに目印を…悠李君?」

 

僕はみんなが歩いている中止まった。

なぜなら聞こえたから。家族の声がかすかに耳に入ったから。

 

「ファイルどうした、っておい!」

「まって。もしかしたら…。」

僕はみんなとは違う方向へとあるき出す。
聞こえた声を辿って右へ左へと細い道を歩いていく。
きれいに並べられた本の中で聞こえた今までの会話。幼い誰かの声と知っている二人の声が聞こえる。
そして、無意識に止まっていた。
 
正面にある本棚には、夏恋・祐二の文字の書かれた本が一冊。
その見覚えのある文字を眺めて思う。
母と父の名前だった。やっと見つけたんだ。
 
周りにはエフさんもアヤさんも誰もいない。ひとりでに歩いて行ってしまったことに申し訳なさを感じながらも、僕はその本を手に取った。
 
分厚い本は、父と母の一生を文字として起こされている。
生まれから出来事について事細かに書かれていた。
最後の方のページ。僕は一枚一枚めくっていき、そのページへとたどり着いた。そこに書き記された文章を読み進める。内容はこうだった。
 
父と母は、どこかの山でとても大きな土砂崩れに巻き込まれて死んでいた。母の本には死にかけた状態で僕と誰かの名前を必死に呼んでいたということ。
 
僕は、なんとかこらえていた涙を流した。この鳴き声は図書館の遠くまで響き渡った。
 
誰かの名前、僕はそこに変な詰まりを覚えた。
見覚えのある名前だった。僕は涙を流しながら一枚一枚ページを巻き戻っていく。そしてめくったページには、「悠李の次の子だね。」という会話があった。そうだ。
僕には妹がいた。すると向こうの世界の記憶が蘇ってくる。僕は目的を果たせたんだ。
 
すると後ろから足音が聞こえてくる。
 
「悠李、やっと見つけたんだね。大丈夫だ。」
 
僕が涙を拭く。すると、本から光がにじみ出る。
 
『悠李。すまない。茶良とともに頑張ってな。』
『ずっと見守ってるよ。だから一生懸命頑張ってね。強い子だよ。
 
その光は、そう言い残して消えていった。
 
「父さん、母さん…今までありがとう。」
 
そっと本を閉じる。そして本を戻した。
 
そのあと、エフさんと家まで帰ると、アヤさんが泣きながら抱きしめてくれた。僕も泣きそうになった。嬉しさと悲しさが目の淵までこみ上げてきた。僕はぐっと溢れそうな涙をせき止めた。強く生きると決めたから。
 
体が、徐々に薄くなり光り始める。
アヤさんは抱きしめていた手をそっと放しこちらを見た。
 
「悠李くん。これでここからは消えちゃうけど、向こうでも頑張ってね。」
アヤさんは優しく声をかけてくれた。
 
「ファイル!もう行っちゃうのぉ。悲しいけど良かった!」
上から来たフライくんは元気に声をかけてくれた。
 
「ここでのことはありがとう。自分を見失うなよ。」
 
コンさんは、今まで見せなかった笑顔を少し見せて声をかけてくれた。
 
「ファイル。がんばれ。応援してる」
「私も応援してるよ!」
コンセントくんたちも励ましてくれた。
 
「それじゃあ。悠李。お別れだな。手伝ってくれたりとかとても感謝してる。君に幸運がありますように。」
エフさんは、かっこよく言ってくれた。
 
体が強く光りだす。もうここにはいれない。感謝だけでも
 
「みなさん。僕のためにありがとうございました。本当に感謝しかありません。」
 
今にも崩れそうな表情をなんとか笑顔にして僕は続けて言った。
 
「強く生きます。ありがとうございました!」
 
そして光が優しく体を包む。僕は目をつむり、深呼吸をした。
光の中でここでの記憶がフラッシュバックされる。
僕はぎゅっと握った手を胸に当てて開いた。
 
体がすっと軽くなり、風が僕の体を撫でた。
まぶた越しに映った光には二人の人影が見えた。
 
徐々に意識が薄れていく中で、僕は思った。
 
「ありがとう。」