Iron Steam E

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「大丈夫か?」

 

ラウンジはコートも着ていなく寒いだろう。

私は、ヘルメットとか着けているが、それでも十分に寒い。

北部にある12ブロックは、基本的に一年中寒い。壁に囲まれた12ブロックは、ほぼ別の国と言っても過言ではない。服越しでも伝わる震えだったので私は一旦バイクを止め、コートでラウンジを包んだ。

 

「とりあえずこれで12ブロックまで行くからな。我慢してくれよ。」

 

少し返事はなかったが、運転に気を付けつつ12ブロックに行った。

しばらくツラツラと運転をしていると、中心街のそばを走っていることに気づいた。その街は光を周辺にまき散らしている。旧道路を走っているのは私達だけ。半径30kmに及ぶ中心地は太陽と言ってもいいぐらいの輝きを常に放っている。この国の人々は太陽に還るために争い、奪い、大切な人であっても裏切る。それが自分のためになるのなら。

もうすぐ昼だというのに空は曇っている。これは天候ではない。人間の発展。国が意図的に生み出した、産業の不物だ。前回は25年前。7時間の間晴れた。その時は、みな手を止め、争いすらもやめ、ただ光を見つめていた。短い光はいろいろな感情を人々に与え消えていく。そしてこの国に戻る。

 

「ラウンジ、もうすぐで12ブロックにつくから、検問の準備しとけよ。」

 

だんだんと大きくなっていく絶壁は雲を突き抜けている。11月中旬は、南と西は温かいが、北は雪が積もる。つまり、壁の向こうは銀世界である。

検問は近い、もう降りるか。

バイクを降り押しながら100mの道を進む。10人程度の検問警備が焚き火を囲んでいた。

ラウンジは凍えこちらを見上げている。不意に少し笑ってしまった。目で何かを訴えてくる姿は面白いな。

 

「ん?珍しいなぁ。旧道路を使うやつがいるなんて。それに懐かしいなバイクは。」

 

少し年老いた男が近づきながら言ってきた。よく見ると、ほとんどが老けている。

こんなんじゃ私でも突破できてしまうな。それほど使われない道というわけだ。

 

「証明書類だ。1ヶ月くらいは世話になる。足りないものはないな?」

 

男はうなずくとこう私達に告げた。

 

「知っているとは思いますが、12ブロックにおいて争いは禁止ですからね。よろしくおねがいしますよ。」

 

わかっている。すれ違いざまにそう返した。

絶壁の中はログハウスが並び、コンクリートや鉄の建物は見えない。柔らかな景色だった。

他の区域とは違い、平和で笑顔が溢れている。血の中で暮らしてきた私からすると、平和ボケしているように思えた。

 

「コアさん、ここすごいですね。みんな楽しそうです。」

 

隣の少年は、夢でも見ているのかのように目を輝かせている。それもそうか。

私達は大通りの真ん中を通り、住居へ向かった。パークが手配した家は小さいが、二人なら丁度いいくらいの一軒家であった。

 

「マンションかと思ったが、まさかこんなのを用意したのか。やるなぁ。」

 

ドアノブに手をかける。かじかんだ手がうまく動かないがなんとか回す。暖気が下から這い上がり、

中に入ると木の香りが漂い、オレンジ色の明かりが目に刺激をする。

 

「これ、温かいですね!」

 

火がつけられた場所の前に座り私に言った。たしか...暖炉といったか?よく木でできているのに燃えないものだ 。

 

「あらかた見たら荷物を整備しろよ。一応ここは暮らすわけじゃないからな。一時的な休憩だからな。」

 

「ここ住みたいですね。」

 

簡単に言ってくれるが、油断すれば命取りになりえるものだ。ブロック庁に申請をし、与えられた任務をこなす。難易度は頭のおかしいものから子供のようなものまでいろいろ。そんな運ゲーはしたくはないものだ。

賑わった部屋は慣れない疲労をためたが、それ以上の癒やしを私達に与えた。

贅沢だがラウンジの通りだ。ずっとここに居たいものだ。この日はすぐに寝てしまった。安心できる場所か...

 

ふと目が覚めた。雪が降る街に呼ばれたように、すぐに目が覚めた。時刻は5時10分程度。普段どおりの朝だが、こんなに心地の良い朝は初めてだ。外には馬車で荷物を運ぶ人が行き来している。

時代を遡ったかのように、車やバイクは走っていない。12ブロックの決まりの一つである。大型機械類は許可がなければ使えない。徹底した決まりだが、こういった決まりがあるからこそ平和が維持される 。

この国にはそういったものはわずかしかない。

ある意味自由な国だろう。

疲れが取れた気がしたのは久しぶりすぎて体が伸びた。洗面台に向かい顔を洗う。鏡に映る私は、体が傷だらけで、顔色だけが生き生きとしている。鏡の私を殴りたくなったがなんとか落ち着け、キッチンへ向かった。

私は軽い飯だけをかばんに入れ、出かける旨の置き手紙を残し家を出た。なんでかって?そりゃあパークに会いに行かなくてはいけないからな。

 

行きに乗ってきたバイクを車庫からだし、旧道路の入り口まで押していった。

約26キロの道のりをバイクで走る。途中、朝ごはんを食べていないことを思いだし、食べた。

旧道路は20年前に新道路という空中道路ができてから使われなくなった。郊外の人々でさえ、使わなかったので表面はひび割れている。ふと郊外を見渡す。街灯で照らされた町はまだ静かなままだ。

だが、その先にやつらがいるのが見えた。青い光。私はそのばから離れるようにまたバイクを動かした。

 

旧道路を降り、下道をゆっくりと進む。少しすると大きな施設が並ぶ建物のあいだから見えてきた。

第6ブロック南部警察駐屯地。

施設は城のような壁に囲まれ、中には塔が3つ立っている。鉄で出来た門を通り、受付に向かった。

 

「ん?どんな要件ですか?」

 

入り口から近づく私に一人の構成員が話しかけてきた。まぁ態度は良くはないか。

 

「パークという奴はいるか。」

 

男は少し驚きおどおどしているように見えた。その後無線機で誰かと通話した後私を面会室へと案内した。

机を挟んで対になるソファ以外にはなにもない質素な部屋は防音仕様になっていた。私はまるで危険組織の会談室じゃないかと思った。

タバコに火をつけ、しばらくしているとパークが入ってきた。

よう、とこちらに挨拶をする。いつもだらしなく着られている服は、流石にしっかりと着ていた。そして気づいたことがある。

 

「お前1級なんだな。」

 

だからあの時の構成員は少し驚いていたのか。警察組織での戦闘員最高クラスの1級。そこからの選抜隊もいるが基本1級が一番となる。まぁ入り口にいる構成員程度のレベルなら呼び捨てできないから呼び捨てした私に驚いたのだろう。

 

「まぁな。そんでお前から来るなんて珍しいな。」

 

「あぁ、まぁそうだな。お前があの家を手に入れたことの感謝とこれからについて話に来た。」

 

「おいまてよ?前者はいいが、後者はやめてくれ。いくらここでも聞かれる。こんど長期休みにはいるからその時にしてくれ。」

 

「また取れたのか?1課も暇だな。一応概要だけは話す。本当は感謝だけ言うつもりだったが、こっちに来るとき12ブロック付近の郊外で青い光が過ぎるのを見た。おそらくスカーの処刑部隊があちこち探し回ってる。軍部の奴らもわざわざ部隊を出す必要はないと感じたらしい。以上だ。」

 

パークは少し考えたあと、「また今度な。」っと言い部屋を出た。私は咥えた古いタバコを灰皿に置き出ていった。

(何かやらかすなあいつ。)

施設を出たあとに思った。どこかの組織を混乱させるようなことをしそうなやつだ。

胸ポケットから新しいタバコを取り出しライターで火をつけた。その煙は焦りをあらわにし、空へ消えていった。

 

「コアさん!なんで何も言わずに出かけたんですか!僕どうすればいいかわからなくて、ほんと凄かったんですよ⁉」

 

「確かにすごいな。」

 

私は唖然としている。これはどうゆうことだ…

 

「そんなこと言ってないでください!」

 

帰ってきた途端このざまだ。トイレットペーパーや書類、食べ物が散乱している。

そして何故か私がソファでラウンジに怒られているわけだ。

 

「はぁ…取り敢えず片付けるぞ。トイレットペーパー丸めてろ。私はほかやっとくから。」

 

どうなったらこうなるんだ?ニンジンがキャベツに刺さっている。それにじゃがいもが包丁もなしに真っ二つに割れているなんて…。一生冷蔵庫は開けさせないようにしないと。

書類も特にやばいやつではなかったが、この散らかり様はなんの書類か検討がつかない。

 

「一つ一つ片付けるとしよう。」

 

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10分ほどでなんとかあらかた片付け、一息つくことができた。それになれない作業は体にくる。こんな作業を一生の間でするとはな。人参を抜く。ジャムを拭く。食器を直す…はぁ思い返しただけで頭が痛くなりそうだ。

 

「それでどこに行ってたんですか?」

 

懲りずにパンをくわえて出てきた。拳が出そうになったがなんとか止めた。こっちは苦労したんだが?どんどん出てきそうだからやめよう。

 

「パークのところだ。今度ここに来る約束をした。あと、お前は冷蔵庫。いやキッチン周辺には許可なく入るな。面倒が起こるから。」

 

えーっと返事した瞬間に持っていたボールペンが折れた。うっかり力を入れすぎたようだ。

ラウンジは、ビクッとしてその場を去った。

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何もない日々というのは暇だ。これを12ブロックの一般の奴らは通常、幸せと言うが、スカーの施設でのあのような環境で血に常に触れてきていた私からすると暇すぎる。

パソコンをいじりながら暇をつぶしているが特に面白いことはなく時間だけが遅く過ぎている。

ある時私はこんな記事を見つけ魅入ってしまった。料理の記事。それも人肉を使わない料理だ。私は興味を持ち調べ始めた。

 

「何見てるんですか?」

 

ラウンジが部屋から出てきた。

 

「あぁ。料理だよ。簡単なのにうまそうじゃないか?」

 

するとラウンジは固まり目を開ききった。

 

「え、あのコアさんが...いや夢ですよね。」

 

「なんだ失礼なやつだな。私だってある程度できる。それにうまそうなのを見て何が悪い。」

 

少し混乱しているラウンジは、

 

「い、いや別にいいんですよ。そ、そうだ!僕書類整理しないと!」

 

ラウンジはそう言うと部屋に戻っていった。

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(いや、あれは絶対そうだ。パークさん来るからだろ。それ以外ないし。しかも何あの目!めっちゃキラキラしてるじゃん。仮に違くてもこれは…)

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「なんだあいつは?まぁいい。これなら作れそうだし材料買ってくるか。ついでにあいつも連れていこう。荷物持ちに。」

 

私はパソコンに書いてある材料をメモ帳に書き写すと財布と剣を持ちコートを着た。

コンコンとラウンジの部屋を叩き開ける。

 

「おい!」

 

ヘッドホンを着けたラウンジを呼び出す。

最近は音楽という芸術に興味があるようだ。

芸術は人間に色々な感情を与えるというが、私にはよく分からなかったものだ。作った者や他者の気持ちなど考えるほどエネルギーの無駄はない。

自分のことを考えるだけで精一杯な現実だからな。私に気づいたラウンジは、すぐにヘッドホンを取り片付けた。

 

「買い物だ。行くぞ。」

 

すぐに少年は準備を始め、珍しくいつもよりも早く終わった。家を出て鍵を閉める。冷気が体を蝕みながらも店に 歩いていった。

開いている傘は隠し刃付きの安いやつだ。

色々な武器が売られている中でも最近は暗殺武器や護身武器などが人気で、一時期の激戦時代のように大型の殺傷武器ではない。これはいわゆる冷戦時代であることを物語っていた。組織同士が大きく戦いに出るのではなく、じわじわと足元から削っていっている時代。私もいつ殺されるかわからない身だから、安価なものでも買っていた。まぁ看守に狙われているとなると関係がないが。

 

「何買いに行くんですか?」

 

そういえば何を買うか言っていなかった。

 

「あぁ、さっき見した料理を作ろうと思ってな。

その材料を買いに行きたい。」

 

ほら、っと紙を渡した。

十数種類の食べ物を記した紙。

 

「へっへー...こんなの作るんですね。」

 

そっけない返事をされて少しイラッとしたが気にしないことにした。

家に囲まれた細い道を進み、開けた道に行くとなにやら騒がしい。街の人が右に逃げているように見える。

 

「どうしたんだ?この騒ぎは。」

 

話しかけた若い男は立ち止まって言った。

「ば、化け物が出たんだ!周りの家を壊して暴れてるんだ。お前も逃げろ殺されるぞ!」

慌てた口調でよく聞き取れなかったが、化け物がいるのは確かだった。人々が来る方向には煙があがり、おぞましい鳴き声が聞こえた。行ってみるか。私は流れに逆らって元凶へ向かった。

横をすれ違う人々は絶望しきった顔で逃げている。目は見開き表情はやつれている。

向かっていると、突然大きな鳴き声とともに一気に静まった。何があったんだ?

元凶のもとにつくと、切り刻まれた大きな化け物と一人。その一人は化け物の前で座っている。私は近づき話しかけた。

 

「あんたがやったのか?」

 

その一人は私の声に気づきこちらを向いた。腰には大剣が...おいまて。

 

「よお、コア。迎えに来てくれたのか?」

 

蒼い髪に藍色のコート。青いラインの入った大剣に暗藍色のバック。

 

「よりによってお前かよ。早いな。予定時刻より2時間早いぞ。」

 

「なんだいいじゃねか。被害も広がんなかっただろ?」

 

まぁそうだな。するとラウンジが後ろから走って来た。

 

「探しましたよ!ってあれ。パークさん!来てたんですか?」

 

疲れた顔のまま話し始めた。

これは話が長くなりそうだ。

後ろから大きな足音が聞こえる。自警団が走って来たようだ。先頭の集団は、

規模の割の鎮圧の速さと化け物の大きさに驚いている。

 

「お前たちがこの化け物を倒したのか?」

 

隊長らしき人物が来た。

 

「いや、この男が全部一人でやった。私達は終わったあとに来ただけだ。」

 

余り巻き込まれたくはないな。私はわざと他人のフリをした。

私はラウンジを連れすぐに現場を離れた。

 

「買い物はなしだな。すぐに戻るぞ。」

 

広場と成り果てた通りから細い道に入る時、少し視線を感じた。目を回すとフードをかぶった何者かが双眼鏡で見ていた。目が合うとすぐにやじの奥に消えていった。戦闘は起こらないだろうが心配だ。私なのかラウンジなのか。警戒しないといけなさそうだ。

それにここにいられるのもあと1週間だけ。移住権を手に入れないとまた危険に晒されてしまう。

家に帰りコートを掛け、準備を終わらせたときベルがなった。扉の前には毛皮で出来た帽子を被ったパークがいた。

ラウンジが迎え入れ、ソファに来た。

 

「さっきは凄かったな。何したらあの短時間であのでかいのを倒せるんだ?」

 

コーヒーを飲みながら私はパークを見る。

 

「まぁ適当にやっただけだ。だが狭かったもんだから手こずったな。」

 

そういえば…とラウンジがつぶやく。

 

「ここって自警団以外は武器の使用と見せたりするのは禁止ではなかったでしたっけ?」

 

頭をかきながらパークは

 

「そうだったんだよなぁ。自警団に武器を向けられたよ。まぁ下手に殺すのはあれだし逃げてきたんだ。」

 

おいおい私達が匿っているようではないか。

一旦場を落ち着けて話を始める。

 

「取り敢えず本題に入ろう。前も行ったとおり最近このあたりをスカーが飛び回ってる。」

 

私はあと一週間以内にここの移住権を得るか、危害のないところの家を見つけるかの情報を提示した。実際移住権を得るのは難しいだろう。だが、こいつを生かせるのならやる価値はある。

移住権は12ブロック以外に、1ブロック ・9ブロックに存在する。基本的にブロックの施設に行き、任務を遂行することが条件となっている。その任務は楽であれば極端に楽だが、死により近くなる。つまり簡単ではないのだ。

 

「明日、役所に行って任務を貰いに行く。それ次第だな。」

 

パークがコーヒーを飲みながら資料を見た。

 

「じゃぁ準備するか。なにが来るかわからないし。」

 

武器研ぎや掃除。携行回復薬の残量やバッテリーの確認。装備品を整え準備を終える。何回も繰り返しているとすぐに終わる。それを見越してなのか、パークは肩掛けバッグから瓶を取り出した。

金色にラップされ、すこし装飾がされたもの。

それは8区でしかとれない超高級ワインだった。

「おいおい。お前そんなんどこで手に入れたんだ!。」

昔、いつの日かみんなで飲んでみたいなと笑いあった日がフラッシュバックし、すこし悲しい気持ちになる。でもせっかくなのだから明るくしようとテンションを上げた。

そうして一日が終わる。

明日次第で運命が変わる。