Iron Steam G

正面の階段から降りてきたのは、体中機械だらけの大きな男。手にはガンランスガントレットが装着され、チェーンを体中に巻いている。そして、男が手を挙げると、ガントレットが光りだし、略奪品の中から同じ光が見えた。完全に包囲されている。私はラウンジを呼び、指示した。

 

「荷物に敵がいる。お前の力で全員薙ぎ払え。前からのやつは私がやる。」

 

ラウンジの能力なら、おそらくこの狭い空間では効果的だ。ラウンジの手が光りだし、杖が出てくる。

その杖を上に掲げそして精神力を粒子に変え熱を生み出していた。

私は前を向き集中した。重い鉄の塊。唸る銃身を整え、奴らが身構える前に放った。銃身から噴き出した蒸気はラウンジの杖から放たれる光に反射して周りを幻想的に照らした。撃ち出した銃弾はガントレットではじかれた。相当な代物だ。あれは、重い塊を爆発で撃ち出したエネルギーを打ち消す力を持っている。

 

「うわーーーーーーーあッ! !」

 

ラウンジが叫び出す。すると蒸気の煙を貫く粒子線が荷物を焼き切った。

その途端大きな悲鳴と瓦礫を作り出す音が鳴り響く。

向こうは目を見開きうろたえていた。私はその瞬間を見逃さずに、すぐに大男に近づき至近距離で胸部に尖った弾丸を撃ち込んだ。上がりかけていたガンランスと、防御しようとしたガントレットは無残に崩れ落ち、胸部に大穴を開けて男は死んだ。後ろから騒音を聞いて来たと思われる下っ端のようなやつは、大男の死体を見て降伏した。ボスが死んだと言いながら。

私は戦闘が終わり、武器を仕舞おうとしたとき、後ろから来たやつらが次々と悲鳴を上げ倒れ込むのを見た。ラウンジをこちらに呼び構えた。

来たのは魚の鱗柄のロングコートに身を包んだ二人の人間。一人はメガネをかけている。一方は帽子をかぶりキセルを咥えていた。

 

「か、看守かッ!」

 

そうだ。前に聞き込みに来た奴とは違う。だがあいつらは看守だ。

 

「居ましたね。やはり情報通りです。」

 

こちらを見てまた続けた。

 

「ハル・ラウンジさん。脱走と規律違反で拘束いたします。それに貴女は…」

 

すると隣のハットを被った女が口を開いた。

 

「久しぶりだな。レイ。何年ぶりだ?共鳴反応がないな。二人ともチップを取り出したか。」

 

「あれ、あなたの所属していた部隊はあなた以外全滅では…。」

 

「しぶとく生きたんだな。」

 

この声とあの尖った後ろ髪。そして煙管。

 

「キルス…お前看守になったのか。まぁあの状況で生き残ったなら妥当か。それにしてもなぜここがわかった。ここにはさっき来たばかりだったんだが。それにここじゃ悲鳴は普通だろうに。」

 

すると男が割り込むように言った。

 

「情報があるからこうして派遣されたんですよレイ=コアさん。また仕事が増えました。」

 

軽く構成員を倒す奴らだ。それに逃げ場がないから圧倒的に不利に近い。あたりを見ると、向こうのビルから光が見える。モールスだ。よく見ると、パークがガンフックの準備をしていた。なんて準備がいいのだか。私は窓に近づきながら合図を送る。そしてラウンジに飛ぶぞといい、窓に突っ込んだ。

飛んできたガンフックは見事にビルの壁に刺さった。ガンフックに掴まり下まで降りることができた。

だが、上から人影が映った。

 

「この程度も飛べないんて貧弱ですか?戦わないうちに能力も落ちてしまいましたか。」

 

流石に看守レベルは伊達ではないな。聞いた話じゃトップレベルのスカーから選出している。私レベルじゃそんなやつらを相手する力はない。

 

「では、おとなしく捕まってください。仕事が増えますので。」

 

止む終えない。本当はスカーを敵に回したくはなかったのだが。戦うしか生きるすべはないみたいだ。

私は腰から剣を抜いた。

 

「戦う意思ありですか…仕方ないですね。」

 

男はコートから大型の斧を取り出し、眼鏡をあげた。来るっ!

私は剣を使い斧の柄を受け止めた。男は斧をまるで短剣のように扱い、こちらのこちらをが攻勢を取らないように押し込んでいる。

 

「その程度ですか?前線の遊撃部隊の柱がこの程度ですか。」

 

「遊撃部隊だって?笑わせるな。あのどこが遊撃だ。それに私は後方手だ。上級のスカーなのにそんなのもわからんのか?」

 

段々と剣が削れていく。戦いはやがて一方的な消耗戦へと変わっていく。戦い方を変えようとしたとき、

もういいです。っと男がつぶやいた。私はその瞬間に右目に激痛を感じた。コートから出てきたのはクロスボウ。その矢が右目を命中させた。

痛みで倒れ込む。眼の前は暗黒と赤い世界。血が吹き出たせいで顔は血だらけになっていた。

終わりか。そう思った。恐らく脳には行ってないが、致命傷だろう。

赤くなった男が近づき、私にクロスボウを向けた。

そして引き金に手をかけた時、そこに誰かが割り込んだ。

 

大剣を男の腕に斬りつけ、蹴り飛ばす。

そして私を持ち上げ、逃げた。

そして眼の前が暗くなり、感覚が薄れていく。

そして意識を手放した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ピ、ピ、ピ…

一定の感覚で聞こえる電子音。

体の感覚が戻り始め、目を開ける。

ある部屋だった。医療機器が多くある白い部屋だった。

体を起こす。右目を開く。瞬きをしても暗黒が続き

左目しか機能していなかった。

私の灰色のコートが掛けられ、枕元には鞘に入れられた剣が置いてある。あの時一瞬だったが、右目をクロスボウで射抜かれたのを覚えている。

そしてパークが助けに来た。

 

「迷惑かけたかもな。」

 

コアさん!っと扉の方から声がした。

ラウンジだ。頬に絆創膏が貼ってある。そして右手には包帯を巻いていた。

 

「その包帯と傷はどうしたんだ?」

 

「えへへ。えーと、これは飛び降りたときにガラスが多少刺さったのと、能力を使いすぎて火傷しました。というかそんなことよりも!コアさん!右目は平気なんですか?痛みとか…」

 

「まぁ違和感はあるが、痛みは殆どない。眼帯でもしておけばいいだろうな。神経手術は高いし 。」

 

ラウンジは手荷物を置き、ベッドの横にある椅子に座った。

 

「あの時、パークさんが看守を攻撃してくれて。それでここまで運んできてくれました。」

 

それはありがたいな。あいつには借りばっかだ。

 

「行動が全部見透かされていましたね。どこから漏れたのでしょう。パークさんは白いスーツの男を調べるそうです。僕もそこからとしか思えません。」

 

まぁあいつか受付を疑うのが妥当な判断だろう。私はふぅっと息をつき、タバコを咥えた。

そして、あのっとラウンジが言い出した。

 

「聞きづらいんですけどいいですか。コアさんはあの帽子の女性と面識があったみたいでしたけど、一体部隊には何があったんですか?」

 

まぁいい頃合いか。

 

「そうだな。数年前だ。私のいた部隊は優秀な奴らが多くて、結構戦闘に駆り出されていたんだ。一時は単独部隊出撃で前哨基地を壊滅させたりもしたな。まぁ私は後ろで撃ってたから特に感じなかったんだが、ある時中々戦果が出ない時期があったらしい。変なミスが多くなったり怪我が重なって出撃が難しくなったり。それで本部が考えた末、私達を実験台にすることを決めたらしい。」

 

「なんで優秀な部隊を…戦果が出なかったとはいえ優秀なのには変わりないのに。」

 

「まぁそうだろうな。まぁ実験の話なんて聞かされていなかったから、久しぶりの戦いと聞いて部隊員は結構燃えていたな。そして作戦当日。ひどい霧だったが私達は国外の荒野で待機をしていたんだ。本部の連絡があるまで動かない予定だった。そして連絡が来たから突撃を開始した。敵の基地に突入したらまぁそこには誰もいなかった。びっくりしたよ。いるはずの対象がいないもんだから。でも、代わりに化け物がいた。それは頭にコードが入った奴らだったな。」

 

「そのコードって…スカーの。」

 

「そうだ。最初私達は新兵器でも投入したのかと考えていた。だが化け物が部隊員の一人を殺した。ただもんじゃないと思ったよ。仲間が仲間を意図的に殺すなんてな。それで濃い霧やら化け物やらで、みんなパニックになって、気づいたら隊長と私ともう一人。そうキルスだ。ボロボロの私達を見て隊長は自らを犠牲にして私達を生かしたんだ。」

 

ふぅっとお茶を口にする。

 

「私とキルスはなんとか戦線を抜け出して工場地帯へ逃げ込んだんだ。その時は絶望しかなかったよ。信じていた本部に裏切られたからな。しばらく近くの廃工場で生活していた。苦しいものだったが、なんとか耐え抜いた。そして連絡が来た。戻ってこいという感じだった。」

 

「コアさんはそこで逃げ出したんですか?」

 

「あぁキルスにもそう言ったな。『こんなところ逃げ出してしまおう』ってな。だがあいつは反対をした。命令に従えってな。二人とも疲れで気が立っていて揉め合いになったな。」

 

「そのあと別々に行動したんですか?」

 

「あの後、ずっとそこにいたら、本部が痺れを切らしたのか、たまたまなのかは知らないが、仲間を殺した奴らが工場地帯を徘徊していたんだ。それで完全に逃げ場をなくして、こっちに来たやつに見つかったんだ。それで戦いになって私は負傷した。だが、霧がひどい日でたまたま奴らに見つからなかったんだ。それでキルスに信号を送った。結構ひどい傷で動けなかったからな。」

 

私は服を上げて腹から胸部へ伸びる縫い跡を見せた。未だに跡は鮮明に残っている。

服を戻しもう一度お茶を口にする。

 

「それでキルスは来たんだが、あいつは私を助けずに霧へ消えた。まぁ喧嘩してたしこの状況では足手まといになるって感じてたんだろうな。そのあと、やつらはいなくなた。なんとか止血やら消毒やらしてその場で倒れ込んでいた。霧が晴れていって周りが見えるようになったときにある男に出会った。私の命の恩人だ。怪我をした私を見てすぐにその人の家まで運んでくれた。本当にありがたいと思ったよ。そして死が本当に怖いと感じた。」

 

私はかばんからファイルを取り出し、1枚の写真をラウンジに見してみる。そこには私とパーク。そして一人の男が写っている。猟銃を持ち、バックパックを背負った男だ。

 

「その銃を持った人が、ソウトカイラ。元国軍少佐だ。国外で狩猟をして生活していたやつだ。」

 

「自ら国外に出て生活をするなんて、危険ですし不便ですね。」

 

久しぶりに聞いた名だなっと扉から聞こえた。

 

「おぅレイ。よく寝れたか?前は出血がひどかったから脳みそがやられたと思ったがなんともなくて何よりだ。」

 

「パークさん!その血どうしたんですか!?」

 

パークのコートは血で染まっている。

 

「あいつに聞きに行ったらよぉ、壁から変なアンドロイドが出てきやがって、そいつらから血が出てきただけだ。あんなの目を瞑って片足でも片付けられる。そんで白い男に問い詰めたら、お前ら12ブロックにいる事バレてんぞってな。スカーからなにか行動があったら知らせろと言われたらしいな。」

 

パークはライターでタバコに火をつけた。

窓の外を見るパークはどこか不安げだ。

 

「どうした?なにか心配か?」

 

う~んと唸ったあと、どこかに語りかけるようにつぶやいた。

 

「いや、大したことじゃない。ただ組織のお偉いさんに国軍潰したのバレちまってなぁ。」

 

「それまずくないですか?まずパークさん組織いれるんですか?」

 

「いや、功績上一応いれるらしいが、国軍に追われる準備しとけって支部長に言われたな。軍は結構お怒りらしいからな。」

 

「あの時みたいに全員なぎ倒してくれれば心配はいらないが、お怒りってことは骨も残さないってことか。」

 

「でも、流石にここは12ブロックですし、攻撃は来ないですよね。」

 

12ブロックは独立と言っても変わりない。それが突き通るならここは絶対的に安全だ。

一部を除いてだが。

流れる国営テレビを眺めながら会話を続けていると、急に画面が変わり、軍の放送へと変わる。

 

「なんでしょう。嫌な予感がします。」

 

ラウンジはもうわかっていたのかもしれない。私達が狙われる日を。

『国軍本部より国民へ伝達いたします。』

愛想のいい男が伝えるとは、なんて邪悪なんだ 。

『先程より、以下の画像の2名を指名手配します。』

そこには私とパークが写っていた。ラウンジはいない。空間が凍りつくように固まったのがわかる。無理はないし、いつかはなると分かりきっていたことだ。なのに手が震え始める。

 

指名手配は国軍が重要機関に重大な損害を与えた人物などに指定するもの。国軍のリヴァイアサン級大隊と場合によってはスカーのトップであるファイブスターという5部隊が出撃したもの。過去に3回の指定があったが、ものの見事に指定された者たちは消滅している。

『指名手配の要請が受託されたため、12ブロックでの国軍及びスカーの侵入、武器の使用が許諾されたこと

を報告いたします。もしこの2名を見かけた場合は…』

 

ラウンジがテレビを消した。

 

「ど、どうするんですか。12ブロックにまで入ってくるなんて。どうするんですか。」

 

パークはなんとも言えない表情で眉間を押さえている。

 

あーすまねぇな。実はよ。」

 

「今更どうした。言い残したことでもあったか。」

 

「実は、帰ってくるときに看守に見つかって戦闘になったんだ。そんで粉々にしてきちまった。たぶんそれが引き金になったかもな。」

 

「お、おい。まじで言ってんのか。看守倒すって。護衛もいただろうにどうなってんだよお前は。」

 

恐ろしい限りだ。私までも殺されそうである。でもそのくらい心強い味方がいるわけだ 。

 

「そろそろここは出たほうがいいな。行くなら国外のあいつの家に行くのが賢明だろう。」