Memory of Your Voice Ⅸ

【第九節:手がかり】


僕がこの図書館にきて、もう実際の時間では2週間経つらしい。
思い返してみれば納得だが、体感では違和感を感じる。


二週間がたった今も何も手がかりはなし。
場所どころか、自分たちの位置もわからないため探すのは困難をきわめている。

こんな状況でも、食事人は後を絶たず、僕はまだ未熟だと、コン姉さんは一人で戦っている。一度無視をして戦ったものの、実際と練習の違いが大きすぎて
けがを負ってしまった。


実践不足なだけっと言い聞かせるが、ただ技術が足りないだけという頭のやじの声が飛び交う。そんななかでも、僕は次の襲撃で戦うと決めた。

あたって砕けろ。この言葉をふと思い出した。
何故か懐かしい言葉に聞こえ、その瞬間感傷に浸っていた。


いつも通り練習を終え、部屋で本を読んでいると、何かに誘われるかのように僕はエフさんの書斎に行った。


気が付けば、もうエフさんの机の前にいた。

「え、え?どどどうしてこんなところにいるの??」

 

動揺していたが、開いていた本の1ページを見て驚愕した。


そこには、remember meっと書かれており、そして、思い出せあのころの記憶を。

っと断片的にページに書かれてあった。


その時、頭に痛みが走った。誰かの声。女の人の声。何故かこの声を聴いていると、心が落ち着く。誰だろう?アヤさんではない。そしてコン姉さんでもない。

ではだれだろう…

 

「お母さん?」

 

ふと口にした言葉。鳥肌が立ち、僕は思い出した。母の存在。しばらくここにいたせいで忘れかけていた。大切な存在を。僕はすぐにその本の表紙を見た。


”Memory of Your Voice"

(あなたの声の記憶)


この本には何か秘密がある。そう確信したとき、書斎のドアが開いた。


まずいかも。そう思った僕は積まれた本の谷の間にそっと隠れた。

少しして机の前に来たのは、エフさんではなくアヤさんであった。

 

(どうして、あやさんがこの部屋にくるんだ?)

 

そのまま僕はじっと彼女の方を見る。彼女は息を荒くして辛そうに見えた。

少しあたりを見渡した後、ふらふらとした足取りでエフさんの机に近づき、置いてあったさっきの本を手に取る。

「あれ?こんなところに置いてあったっけ?ファイル君に読まれてたら大変なことになるのに…」


まさか僕がいるとは思いもしないまま、机の奥にある本棚に行くと、
本をしまうと思いきやいろいろな本を押し始めた。
5.6冊の本を推し終わると、彼女はなにやら唱え始めた。

すると本棚が動き出し、人間一人入れるくらいの入り口が開いた。


まるで推理小説のからくりのように。


彼女はそのまま中に入ると扉はしまった。そして何事もなかったかのように静まり返った部屋に戻る。

僕は大変な光景を見てしまったのかもしれない。
秘密の部屋があるのだ、そして僕が読んではいけない本がある。

本の間から出てくると僕はアヤさんの押した本を順番通りに押し始める。
でも決して記憶しようと思ったわけではないのに体が勝手に動くのだ。

全て押し終えたが、肝心な言葉がわからない。そこまで聞き取れたわけではない。

だが、机の引き出しに、紙が張り付けてあった。

”すべての世界に、本の加護があらんことを。”

 

「が、がばがばかよ…」

 

恐らく先ほどの言葉なのだろうが、あまりにも無防備すぎてつい口から洩れてしまった。そして先ほどの言葉を唱える。
静かな部屋に響き渡るような、ささやかな声で。

 

「すべての世界に、本の加護があらんことを。」

 

すると扉が開いた。明るい部屋にそれよりも明るい光が差し込んでくる。

おそらくこの先はエフさんとアヤさんが管理する、すごい所につながっているのだろう。そう思い、好奇心と恐怖の混ざる中、一歩一歩と入った。


入るとそこに上へ続く階段がある。何段か計り知れないほどの階段。
アヤさんが入ってからさほど時間は立っていないはずが、姿が見えない。唖然としていた口を引き締め、少し考えた後いいことを思いつく。
僕の武器は発現とともに筋力を増強する。それを利用して階段を登ろう、そう考えた僕は装備を発現させ、まるで、カブトムシを捕まえようとする少年のようにウキウキした気持ちで階段を駆け上がった。


だが、そんな現実甘くはない、武器を発現させるのに体力を多少使うし、装備は重い。それに元の筋力が皆無のため、さほど変わらなかった。

 

「くそ…駄目かよ。辛いなぁ。」


そういいつつもそれに耐え、気づくと頂上に着いた。だがそこは見ないほうが良かったのかもしれない。

 

【第十章:姿】

 

階段を上がり切り、息を整え、そして道を進むと扉があった、特に鍵もない扉なので簡単に開くが近づくとあることに気づいた。

 

「なんか、暑いな。なにがあるんだ?」

 

扉を押すと熱風が来る。やけどはしないものの、結構暑い。


暑さに我慢しつつ扉を開くと、目の前に広がったのは輝かな図書館の風景とは全く違った世界だった。

 

目の前には多くの何かが吊るされ、その先には、なにやら人影がある。

僕は、すごい空間を前に圧倒されながらも、その人影に近づいた。

 

「あやさんどんなところに来てるんですか…」


僕は少しずつ歩みを進め、人影らしきものがくっきりと視界に映った時、
一瞬息が詰まった。


そこにいたのは、形容しがたい悪魔であった。角が生え、全身鱗につつんだショートへアの女性。ところどころに傷跡があり、そこからは炎が出ている。


彼女はこちらに気付くと、聞いたことのない声が混じった声で、僕に

 

「なんで、なんで此処にいるの?来ちゃダメ、ここはっ」

 

彼女のうしろから、なにやら動くものが来る。
それは食事人なんて比ではない大きさの『蟲』であった。だが、表面の皮膚には無数の顔が付いており、それはこの図書館に来た客の成れの果てなのだろうと感じさせる。

此処に来たところでほとんどの人が死にゆく。それをその蟲と彼女が物語っていた。


どうやって死ぬのか、少しは疑問に思った。なぜなら、客を食事人は食べないから。

では、どうやって死んでいくのか。死体は?残っているのならもうとっくに死体で埋もれているはずなのだから。


彼女はこの図書館で生まれ、そして

 

 


目的を達成できなかった客を殺す”執行者”であった。

僕は、彼女の知られてはいけない秘密を知ってしまった。

僕は一歩一歩と確実に後退している。

だが執行者と蟲は逃さなかった。

無数の影が僕を捉えた。足が震えて抵抗も出来なかった
恐らくこのまま殺されるのであろう。僕はそう感じた。蟲の口が開き僕を消そうとしている。その光景の中彼女はずっと笑っていた。
今までに見たことのない、口角の上がった顔。
それはもう、形もなくなったアヤさんではないものだった。
そして影になにやら指示をすると、影は集まり、僕を見つめた。
もう、ここで死ぬのが運命なのだろう僕はそう思った。
影たちは僕の前に来ると運ぼうと周りを囲んだ。


だが、その影たちは、僕に語り掛けてきた。

”君は死ぬべきではない、早く逃げるんだ”
その瞬間僕は入り口まで駆けだした。

彼女の顔は思い出したくはない。

この後のことなんて考えたくなかった。


ひたすら道を戻っていた時、前からエフさんが走ってきていた。

そして僕を包み込んだ。背の高く、そして固い装備に身を包んだエフさんは、僕を離さなかった。

 

「アヤに会ったんだな。その顔は酷いぞ。コンに見つかったら笑われちまうぞ。大丈夫怯えなくていい。安心しろ、もうすぐいつものアヤは帰ってくる。」

 

そして僕は目をつむりそして暗闇に足を入れた。

 

mb