Memory of your Voice Ⅷ
【第八節:違う現実】
「エフさんいいの?いくら実践ではないとはいえ、体使い過ぎじゃない?」
そう言って水を飲むコンさんは、腰に大きな剣を持っている。
その剣に付いた血が昼前の太陽の光が反射していた。
「まぁ体はちょっと痛むかな。」
エフさんはあの時から食欲はないし、さすがに病み上がりの感覚らしい。
「あぁ、問題はないし体を動かさないと治らないだろ?
それにファイル君に頼んだのは俺だからな、責任はとらないとね。」
「う~ん、まぁエフさんがそういうならいいけど。ちょっと私と一回模擬戦しに行かない?って思ってさ。そうおもうだろ?いつまでもこんなちっぽけな練習してても強くはならないし、そんなんなら実践したほうがはやくないか?」
実践?食事人と戦うの?いや、さすがに早すぎる。
そう心の中で焦りつつ「本物ですか…?」と言ってしまった。
肝心な所だ、死ぬかもしれないし。
「う~ん…まぁ本物じゃねぇかな?。本からだす奴って本物だよな?エフさん。」
そうだな。っとエフさんは言った時に心臓が弾けそうになった。
いくら本から手に入れた力だとは言え、エフさんでも油断すれば重傷を負う化け物だ。
十分に注意をしないと…水を一口飲み、コンさんについていくことになった僕は昼ご飯をもって戦場に向かった。
【第九節:戦うことの代償】
どうしようか、何気に空気が気まずい。今気づいたが全然話していない。
来た頃からコンさんは部屋にいつもいるせいで、会話する機会がなかった。そこで僕は思い切って話してみよう。っと思った。
だが、何を話そうか迷う。変に話を打ち出したり急に突っ込んだ話をしたりするのは、逆に気まずくなりそうだ。
でも…
そんなことを考えていたせいで。
「さっきエフとなに話してたんだ?」
先制攻撃を受け、少し情けなく感じ。少し間が空いてから答えた。
「え~と…この図書館の歴史を聴いていました。」
コンさんはフーンっと答えると、私に何か聴きたいことある?っと返してきた。
そこで僕は、少し踏み込んだ内容を質問した。
「あの、コンさんってこの世界で生まれましたか?」
彼女は、ビクッっとしたあと少し悲しそうな顔で答えた。
「いや、私はエフと同じ、そしてお前とも。思い返してみれば、何年前だろうな、6年前なのかな。私は、ファイルの入ってきた入り口とは違って、アヤさんがエフを治した湖の奥にあるでかい木の根元で目を覚ましたな。ちょうど星が綺麗で幻想的な夜だった。そんで困惑してるときに、食事人が襲ってきたんだ。あの時は動けなかったな」
「それで…どうしたんですか?逃げたりとか…」
「簡単にいうなよ?私だって逃げようとはしたさ。でも数が多すぎた。それに、あの時はスゲー怖かったんだ。見たことねぇバケモンが近づいて来るんだからな。」
確かに見たことのない化け物が来たら僕も恐らく足が震えて動けない。
でも、その最初は恐怖した化け物を今コンさんは相手にして戦っている。
彼女の強さと勇気はどこから来ているのか知りたい。
「っでその時にミライが助けてくれたんだ。あいつはすっげぇぞ。急に現れて光を放ったんだ。そうしたら奴らが次々倒れて行ってさ。なんなんだと思ったよ。あぁまだミライはその時相棒じゃなかったんだが、私が図書館で暮らし始めて1年半くらいの時に、食事人と戦う練習をしてたんだ。いつ来てもおかしくはないからな。っであるとき、エフの頼みで森に探索に行ったんだ。その時に昼なのに食事人が3匹ぐらいいて、その前には未来が倒れていたんだ。」
「それで助けたんですか?」
「あぁそうだ、まぁあいつらが先に私の方に振り向いたからすぐに切ってやったよ。」
「その後に図書館にミライを連れていったら懐いちまった訳だ。まぁ恩もあったし受け入れたんだ。あいつはいい奴だよ。」
彼女はは満足そうに話した後、付いたぞ。といい前を向くと、
そこは少し高い丘のてっぺんの開けた場所。周りには遮られるものがほとんどなく、実践にはちょうどいい広さだった。
「よし、ここでやるぞ。荷物置いて準備しな。」
命令口調で言われ、近くの椅子に荷物を置き装備を着る。まだ慣れないローブは、白く輝きを持っている。
この白がどれだけ血に染まるのかはまだ考えたくはなかった。
そしてどれだけの傷をこれから負うことになるのか。まだ、想像すらしたくなかった。
「じゃぁ、この本から一匹だすけど準備はいいか?ビビるなよ。初めてだろうが奴は襲ってくる。少し厳しい言い方になるけど…」
少し間を開けて「死にたくなかったら戦うこと。」と言った。
心臓の鼓動がどんどん荒くなっていく。なんとか落ち着け、目をつむり深呼吸をする。手には確かに金属でできた柄が僕に力を与えている。そして重い鎌を両手に持ち、構える。目を開けた時。無数の星が目の前に集まり、ある形をつくりだした。
それは、二足歩行で胴体から頭にかけて丸く縦長であり、てっぺんには口と目、そして正面にも目と口がある。手は4本。厳密にいうと背中から二本の腕が生えてきている。
「これが食事人…」
唾をのみこんだ時、化け物はこちらに向かって突進してきた。頭の口は体と比にならないほどの大きさで丸のみにされそうだった。
僕は横に走ってよけた。食事人は腕を変形させ、斧のような物を形どった。
それが二本、同時に向かって僕を殺そうとする。僕は後ろに下がった。
「戦え!そんな避けてても埒が明かないだけだぞ。いつか体力が尽きてやられるだけだ。戦え。」
そういわれ僕は鎌をもう一度握り直し、食事人の攻撃をかわした後、振り下ろした。
鎌は先から、食事人の体内に入り込みそして抉り、大きな傷跡を作った。
食事人は叫び、そして怯み出した。
「今だ!そのすきを逃すなよ!」
僕は何度も何度も鎌を四方八方から化け物に振りかざし、そして体を切り裂いた。
僕は、その時コンさんとは違う何かの声が聞こえ、その声に従った。
ひたすら化け物の動きを根絶するために、僕は”奴らを殺すために”…
頭にぐちゅぐちゅと音が入り込み、世界は紅く染まっていた。
その時、後ろから足音が聞こえ、振り向こうとしたとき頭に衝撃が走り、
そのまま意識を手放した。
そして気づいたら動かなくなった食事人だったものが目の前に転がっていた。
もはや生命をもっていたとは思えないほどにぐちゃぐちゃになり、切り裂かれた内臓も跡形もなくなっていた。
僕はトドメをさした後も手を止めることはできなかった。
「おい、大丈夫か?お前、私が殴るまでずっと食事人をその鎌で切り続けて…なんかに憑りつかれてんのか?」
そういわれ、確かにあの時、誰かの声が聞こえた。
そして意識が遠のいていく感覚があった。
練習の時と同じ感覚…
僕の心を操っているかのようなあの声はいったいなんなんだろう…
「とりあえずもう帰ろう、死体は夜になったら食事人が片付けてくれるよ。
だから…ほら行くぞ。」
僕はおぼつかない足を動かし家へ帰った。
「わかった。」
帰り道彼女はこんなことを言った。
それまで何も話していなかったのでびっくりした。
そして僕にこう伝えた。
「ファイル、いい?もっと強い意識を持て。そうじゃないとお前の使ってる武器の意識に取り込まれちまう。私のやつは私の心と共鳴した…けれどお前のやつは少し、いやだいぶエゴがつよいみたいだ。そしてお前はそれに取り込まれ、さっきみたいになる。
武器を出していないときはいいけど、この状態が続けばいつかは完全に乗っ取られる。
だから自分の意識を強く保つんだ。まぁこれも含めて練習だな。」
とりこまれる?武器には意識があるというのだろうか?
もし、そうならあの声は武器が僕の心に侵入してきたということになる。
「まぁ大丈夫だよ、いざとなったら私とエフで止めるし、アヤが回復してくれるから。気を付けつつ練習してくれよ。」
エフにはあとで伝えておくと彼女は言ってくれた。
いい人に囲まれている。そんな幸せな気持ちと、いつ取り込まれるかわからない緊張が心の中でぶつかり合っていた。
mb