Memory of your Voice Ⅴ


【第五節:戦う力】


階段を上がり、彼のいるという玄関に向かう。少し階段を上った先の広く吹き抜けた玄関。そこにはエフさんが赤黒いローブに見を包み倒れていた。想像を絶する光景だった。お腹の半分はなくなっており内臓がむき出しになっている。彼の周辺は灯りに照らされ輝いている血が溜まっている。エフさんのけがの状況を確認したアヤさんは僕たちにこう言った。

 

「ミライちゃんとコンセント君たちを連れてきて!」

 

彼女の眼は今までの蒼く鮮やかな目ではなく、紅く深い目をしていた。フライ君と地下室にいる三匹を連れてくるとアヤさんは何やら本を開いて読んでいた。

 

 「みんな、エフさんを外の湖に連れて行って。そうしたら地下室に行って…あとは私がなんとかするから。」


そういわれ湖に連れて行くと、そこには大量の光動く生物が集まっていた。アヤさんの指示通りにし、エフさんを水につけるとエフさんはまるで死海で浮く人のように浮き、決して沈まなかった。だんだんとその光動く生物がエフさんの周りを囲み始める。

そして僕たちは家の地下室に行き、ドアを閉めようとしたその時だった。


ものすごい閃光と、星のような輝きが湖から発せられていた。

すると、後ろでコンさんは言った。


「こんなん初めてなんだ。エフがこんなことになるのは。最初は私も信じられなかった。私があいつと合流したら…」


彼女の声は震えていた。夕方の荒っぽさは嘘のように。目は虚ろになり、そして唇は真っ青だった。それほど急なことだとあらためて痛感した。

 そして閃光は徐々に弱まり小さな光の種となって暗闇に消えていった。

僕たちはすぐ湖に行くと、アヤさんは水際で倒れていた。そしてその隣には、腹部が元通りになり、それ以外の損傷も治っていたエフさんがいた。


そして二人を、住居の寝室まで運び、コンさんの所に行った。コンさんはリビングの暖炉で話してくれた。普段は傷一つなく帰ってきて、あっても擦り傷程度。そして今日の食事人はいつもとは少し違かったこと。

そして暖炉の灯が消えかかった時僕はフライ君の部屋で寝た。


だが寝れなかった。当たり前だ。僕が来た日にこんなことがあったら、自分が何か不安定にしたという罪悪感。そして明日二人にどんな顔であったらいいか。

そんな事を考えていると部屋のドアが開いた。そこにはエフさんがいた。


そして、

「来てほしい。」


そういわれ僕は、寝言を放つフライくんを起こさないように、そっと部屋を出た。

 


エフさんについていくと、エフさんの書斎に入った。たくさんの本が床に散らかり、積み重なって山となっている。古い本から少し新しいろいろな本が置いてある書斎。その奥にある机に向かうと、そこはなにやら本が数冊置いてあった。そこでエフさんは僕にこう言った。


「さっきはすまない。変な姿見せてしまったな。ほんとはすぐ終わらせて君に安心してもらいたかったんだけど。だめだったな。」

 

と少し笑いながら僕に言った。静かな夜の部屋に心臓の鼓動ですら音として感じる。そして、真剣な顔になった。今日一度も見せなかった表情だった。


「少しまじめな話をするね。少しだけ敬語は外させてね。俺はしばらく、戦うことはできない。こんな状態になった以上ね。アヤにもすごい負担をかけたから。あの治癒はすごい精神力と体力、集中力とか身体に大きな負担をかけるんだ。特に重症だと。本当はフライ君に戦ってほしいんだけど、あいつは血を見れないから。」

 

そういえばさっきもエフさんの患部を見てすぐに後ろを向いて今にも吐きそうであった。

「だから、君にお願いしたい。君には戦う力がある。極力、君の稽古をつける。すまないがお願いできないか。」

 

僕は…協力したいと思っているんだ。コンさんだけに戦わせていたらと考えると、なにか力になりたい。

 

「はい。僕は守られた側です。次は僕が守る番になります。まぁ戦った経験はないと思いますけど、僕からもできる限り協力させてください。」


恐らく、今度僕がエフさんのようになったら直すことは出来ないだろう。コンさんにも負担がかかるかもしれない。

 

でも僕は決めたんだ。僕が戦う。
未熟な僕でも戦えることを証明する。


そう…決めたんだ。

 

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